【速報】エディオンとニトリHDが資本業務提携

ニトリとエディオンのホームページ画像

エディオンが株式会社ニトリホールディングスとの資本業務提携を発表しました。

株式会社ニトリホールディングスとの資本業務提携に関するお知らせ  (PDFファイル)

リリースには以下のように書かれています。

当社は、2022 年4月 27 日開催の当社取締役会において、株式会社ニトリホールディングス(以下、「ニトリ」といいます。)との資本業務提携契約書(以下、「本契約」といいます。)の締結について決議いたしました。 これに関連して、株式会社LIXIL(以下、「LIXIL」といいます。)が保有する当社普通株式の全部を売却し、ニトリが取得する見込みです。なお、当社とLIXILとの資本提携は解消されますが、業務提携契約は引き続き継続いたします。

エディオン ニュースリリース 2022 年4月27日 「株式会社ニトリホールディングスとの資本業務提携に関するお知らせ」より

LIXILは、2013年8月にエディオンの約49.9億円の第三者割当増資を引き受け、持ち株比率約8%の筆頭株主になっていました。2013年と言えば、地上デジタル放送移行のテレビ特需の反動で家電量販企業が苦しんでいた時期であり、エディオンはリフォーム事業を柱とすべく動いていました。しかしながら、9年弱が経過した現在も目立った協業効果は見られません。LIXILとの関係がどうなるのか、注視していた中での今回の発表です。

今回の業務提携の内容としては、以下が挙げられています。

  1. 魅力的な店舗開発に向けた協働
  2. 商品の相互交流と商品ラインアップ拡充
  3. EC事業でのシナジー創出
  4. 物流ネットワーク及び設置サービス、アフターサービスネットワークの相互活用
  5. リフォーム事業、法人ビジネスにおけるシナジー創出

LIXILとの提携時の「(1)取扱商品の拡大、(2)商品開発の実施、(3)全国をカバーする工事体制の確立、(4)人的交流」に比べると、踏み込んだ印象があります。LIXILはあくまで住設関連メーカーであり、BtoCを担う施工業者はあくまでFC加盟店です。一方、ニトリHDは、自社ビジネスモデルを「製造物流小売業」としており(アパレルで言うSPA)、軸足はあくまでエディオンと同じ「流通」です。ジャンルが異なるとはいえ、家電も暮らしを支える住宅設備の一部と考えれば、非常に親和性の高い流通企業同士と言えます。当初のニトリの持ち株比率は10%程度に過ぎませんが、今後の「流通再編」につながる動きとみることもできそうです。

現在、ニトリHDはPB家電を展開しています。照明や掃除機、キッチン家電などの小型家電に加え、冷蔵庫や洗濯機、さらにはエアコンなど、設置工事を必要とする大型家電にも注力しています。もっともPB商品の多くは、OEM(Original Equipment Manufacturing)というよりODM(Original Design manufacturing)でしょう。OEMは生産のみ委託するのに対し、ODMは開発、設計まで委託するため、家電製造のノウハウがなくても参入できます。しかしながら、価格重視の新生活家電ならともかく、一般的な家族世帯で使うような家電はある程度の性能や信頼性が求められるため、ODMでは家電需要の獲得にも限界があります。

エディオンはもともとPB家電に強い家電量販店で、独自の機能アップを図った「クオル」シリーズを展開しています。国内大手家電メーカーに対し市販モデルの機能アップを要請し、エディオンでしか買えない独自モデルとしています。かつては「クオル」シリーズの販売構成比30~40%を目標にしていたこともあります。最近では珍しくありませんが、エアコン室外機の長持ちモデル(塩害対策モデル)なども、もともとエディオンが始めたオリジナル家電だったと筆者は記憶しています。残念ながら、エディオンの場合、自社ブランド家電は、自社既存顧客層には強い支持を受けても、新規顧客層の獲得、あるいは新規出店での競合に対する強みにはなかなかつながらなかった印象で、クオルシリーズの拡大戦略も見直されたようです。しかし、家電販売で顧客の要望を吸い上げてPB家電を長年展開してきたノウハウは、ニトリHDにとって是が非でも欲しいものでしょう。

加えて、エディオンは、蔦屋家電との協力関係の中で、大型商品の配送設置工事を請け負っています。家電販売の柱は大型家電であり、異業種が家電販売に参入する上で、サービスインフラの確立は大きな参入障壁となっています。ニトリHDにとっては、エディオンの配送設置工事体制を利用できれば、家電販売拡大につなげられます。また、家電は手間がかかる商品です。販売時には説明や設置工事に関する確認など接客が必要。さらには購入後も、修理の受付、不具合があった場合のリコール対応など、アフターサービス体制も必要です。特にPB商品の場合、リコールなどが発生すると、対応に手間と大きな費用がかかります。実は、PB家電は、売ることよりも、売った後のフォローが大変なのです。ニトリHDとして、これらのサービス体制を自社でゼロから構築するのは大変ですから、エディオンとの協業はまさに願ったりかなったりでしょう。

エディオンとしても、なかなか協業効果が出ないLIXILより、ニトリHDの方が自社の販売強化につながる可能性が見込めます。エディオンは家電量販企業の中でも売上高販管費率が高く(2021年3月期25.8%)、2022年3月期の営業利益率の見込みは2.6%。高コストな企業体質で、家電市場が不調になると経営数字が厳しくなる傾向が見られます。また、店舗展開の面でも、エディオンは中国、関西、中部地方が中心で、関東を含む東日本は手薄です。とはいえ、国内家電市場の拡大が見込みにくい中、出店拡大で業績を伸ばすことはもはや現実的ではありません。こうなると、自社の事業拡大を、全国に店舗展開し、物流網を持っているニトリHDとの協業店舗に頼らざるを得ないとも考えられます。

エディオンとニトリHD、「協業」と言えば聞こえはいいものの、ニトリHDの成長路線に、エディオンの既存事業や強みがあまりにもマッチするため、ニトリHDのエディオンに対する関与はLIXILとは比べ物にならないほど強くなると予想されます。エディオンとして、それが本望なのかどうか、これは分かりません。

取り急ぎ今回の発表に対する筆者の印象をつらつらと書いてみましたが、現時点では間違いなくWIN-WINになりそうな提携と言えます。とはいえ、5年後10年後を考えると、この協業がうまく行けば行くほど、エディオンがニトリHDに呑み込まれるというイメージがぬぐえません。時価総額は、エディオンの約1220億円に対し、ニトリHDは1兆5100億円。エディオンの時価総額は、ニトリHDの2022年2月期の営業利益1382億円よりも下です。資本業務提携がうまく行けば、家電部門として買収した方がニトリHDとしては間違いなくお得でしょう。もっとも、そうなれば、他の家電量販企業とニトリHDの本格的な戦いの火ぶたが切られることになりますし、家電メーカーを巻き込んだ大きな変化が発生する可能性もあります。今回の資本業務提携が、今後家電流通市場にどのような変化、変革をもたらすのか、しばらく目を離せそうにありません。

研究所長 川添 聡志

株式会社流通ビジネス研究所 所長 雑誌および書籍の編集者として出版業界に携わる。家電量販店向け業界誌『月刊IT&家電ビジネス』編集長を務めた後、家電量販企業に転職。営業企画やWebを含めた販促などを担当し、その後流通コンサルタントとして独立。ケーズデンキ創業者・加藤馨氏および経営を引き継いだ加藤修一氏の「創業精神」を後世に伝えるため、株式会社加藤馨経営研究所の設立に携わり研究所所長に就任。その後、ケーズデンキに限定せず、幅広く流通市場を調査研究するため、2022年1月からコンサルティング会社「株式会社流通ビジネス研究所」を設立し、同年4月より活動拠点を新会社に移行

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