経営者の視点「店舗戦略」

1999年12月にオープンした当時のケーズデンキ水戸本店の写真

ケーズデンキと言えば、家電量販店では唯一、家電専業に徹していながら、郊外に大型店を構えています。

 ケーズデンキは2000年代初頭まではスクラップ&ビルドの時代で、新規出店と並行して店舗の大型化に取り組んでいます。現在の主流である、売場面積3000㎡以上の店舗が多くなり始めたのは数年ほど前からですが、今は全店舗の半数以上が3000㎡を超えており、手応えを感じています。
 大きな売場なら、品揃えもよくなり試聴コーナーや提案コーナーなどの演出もできます。小さな売場では、そんなことより購入頻度の高いものを扱ったほうがいいということになり、ホー厶シアターなどの売場などつくれません。その結果、効率だけを追求したつまらない店になってしまう可能性があります。
 ただ、単に大きくすると場所代が高くなり、今度はコストダウンができなくなってしまいます。ですから、ケーズデンキでは郊外に大きな店をつくっています。コストを下げることは、お客様にもメーカーさんにも負担をかけずに利益を生み出す方法です。ローコストといっても「売上に占める経費の比率を下げる」という意味で、何でもかんでも削減ではありません。使うべきところに使わないと、事業規模は拡大できません。今後も大型店舗を数多く出店し、その上で少人数で営業する方法を追求していきます。

加藤修一・著 すべては社員のために「がんばらない経営」(かんき出版) 第2章 会社はゆっくり大きくするもの

 地域で一番大きな店舗になれば、「あそこに行けばほしい家電があるかも」とお客様が期待を抱きます。「安い」と派手な文言のチラシで集客を図るより効果的です。買い回りをする商品の場合、お客様の購入店舗の選択肢は2~3店舗。その選択候補に入れなければ「見向きもされない店」となってしまいます。「一番大きい店」というのは選択候補に入るうえで重要な要素です。

 店舗が大きければ、展示場所の確保を気にせず、いろいろな商品を置けます。電子レンジや冷蔵庫などの主力家電だけでなく、小物家電、さらには消耗品も多数置けます。空気清浄機や加湿器のフィルター、洗濯機の糸くずフィルター、あるいはプリンターや様々なタイプの電池や電球などなど。フィルターなどは、多くの家電量販店が、店舗に在庫を置かず、メーカー取り寄せにしていますし、洗濯機の糸くずフィルターなどは汎用品で済ませています。一年に何個も売れる商品ではなく、単価も低いためです。商品回転率や売り場効率を度外視しなければ品揃えできないタイプの商品なのです。しかし、ケーズデンキの場合、メーカー純正の消耗品を品揃えしています。「単価も低く、1商品当たりの在庫数は1~2点で在庫金額もたかが知れている。ずっと売れ残ったとしても、他で手に入らなくなればむしろ、当社がお客様にとって唯一の購入先になる。最終処分になっても、当社の品揃えをお客様に知っていただく“壁紙商品”として十分な宣伝効果がある」と加藤修一氏は語っています。広い売り場があるからこそ、品揃えでも競合を圧倒できますし、圧倒しなければならないのです。

 とはいえ、ネット通販が浸透し、リアル店舗も昔ほどの高い売上高を出せなくなっている今、業界では「大型店」を見直す動きも出ています。売上が少ないため、店舗人員を削減する。人員を削減していくと広い売り場をカバーできなくなるので、今度は売場面積を縮小する。その結果、店構えは立派でも、中に入ると売り場が狭いという店舗が生まれています。人件費率や売り場効率を考えた見直し策ですが、本当にそれでいいのででしょうか。

 大型店舗が売り場を縮小する場合、原因にはいくつか考えられます。1つは、競合が強くてなかなか売り上げを伸ばせないこと。2つめは、商圏規模が想定よりも小さかったり、大規模商業施設や道路が開通する計画を見込んで近隣に出店したものの、計画自体が見直されてしまい前提条件が崩れた場合です。ほかにも、店舗がお客様の支持を失った場合もあるでしょう。また、家電量販店の1店舗当たり売上高が縮小傾向にある中、大型店でもかつて達成できていた予算に届かなくなった場合もあるでしょう。

 競合が強い場合、人員を減らし売場面積を縮小すれば、当然品揃えも悪化しますから、今後競合に勝てる見込みがなくなります。最終的には、閉店する道しかなく、閉店までの時間稼ぎにしかならないでしょう。お客様の支持を失った場合も、お客様の信頼や支持を獲得するために、むしろ人員や品揃えを強化し、自店のブランド力を高めなければなりません。縮小策は正反対であり、閉店までの時間を早める効果しかありません。商圏規模や前提条件が見込み違いだった場合は、今後の売り上げ増加が見込めないので、土地の契約期間満了まで最小限の出費で営業し続けるために、縮小策も致し方ないかもしれません。

 いずれにせよ、不採算店の店舗規模縮小策というのは、競合に対する「敗北宣言」、あるいは出店施策の「失敗宣言」に他ならないのです。とはいえ、多店舗展開をしていれば、店舗規模と商圏規模のミスマッチ、競合に対する苦戦、もしくは単純に見込み違いなどにより、不採算店というのは一定割合出てきます。また、5~10年と営業していれば、商圏規模が急激に縮小し、収支トントンだった店舗が不振店になることだってあります。

 収支を最重視する各本部や幹部には、不採算店はどうにかして解決しなければならない課題と映ります。一方、経営的な視点ではどうでしょうか。重要なのは全社としての収支です。会社全体の収支が高い利益が出ていれば、不採算店が何割あろうと早急に対処する必要はありません。不振店舗を閉めるのは簡単ですが、店舗単独の採算性を見るだけでなく、他店舗とのネットワークによるエリアシェア、競合に対する店舗網の優位性などを考慮し、本当にその店が不要なのか、閉店が唯一の選択肢なのか考える必要があります。

 業績が良いのに、不振店舗の整理に取り掛かるケースも珍しくありません。会社がうまく行っていると、経営幹部は特に解決すべき課題がなく、ヒマつぶしというわけではありませんが、そういう時こそ前年より高い利益水準の確保、コスト削減などに取り組みがちです。先々、市場環境が悪くなった時に備えて、もっと筋肉質の経営にしないといけない——しかし、人間は体脂肪率が下がり過ぎると病気へ抵抗力がなくなり、体が常に無理をしている状態になってしまいます。会社も同様です。そぎ落として確保した利益は、借金が多ければ返済などに充てられますが、期中に投資すべき用途がなければ、上場企業なら配当や自社株買いなどの株主還元に回ります。業績が好調なら、確保した利益を留保するより還元するよう求められますから、いざ市場環境が悪化した時に思っていたほど余裕がなく、いわば利益の先食いになりかねません。

 加藤修一氏は、「利益というのは出過ぎてもよくない。大きな利益が出るならお客様や従業員に還元すべき」と話します。お客様への還元というのは、なにも安売りだけではありません。お客様の買い物インフラとしての店舗を維持する、販売員を増やしてお客様が接客を受けやすくすることも含まれるでしょう。その結果として、各店舗がお客様に支持され、会社のブランド力が向上します。これも、中長期的な投資なのです。

 会社の利益の最大化を目指すよりも、利益水準の適正化を目指すことは、経営者にしか決断できません。どうすればもっと儲かるかではなく、何が正しいか、その取り組みが将来的にどのような結果につながるかを考える。教科書的な経営論や投資家の意見でもあく、なにが正しいのかを判断するのが経営者の重要な役割なのです。最後に「加藤馨氏の「正しい人生」」で紹介した文章を再掲します。

ものを判断するうえでは損得を考えず、すべて、どちらが正しいかということを判断基準にしてほしいものです。この基準が間違っていると社会的にも信用されませんし、事業としても発展しなくなると思います。

「1997 SUMMER ひろば NO.19」の「名誉会長挨拶」より
1999年12月にオープンした当時のケーズデンキ水戸本店の写真
1999年12月にオープンした当時のケーズデンキ水戸本店

研究所長 川添 聡志

株式会社流通ビジネス研究所 所長 雑誌および書籍の編集者として出版業界に携わる。家電量販店向け業界誌『月刊IT&家電ビジネス』編集長を務めた後、家電量販企業に転職。営業企画やWebを含めた販促などを担当し、その後流通コンサルタントとして独立。ケーズデンキ創業者・加藤馨氏および経営を引き継いだ加藤修一氏の「創業精神」を後世に伝えるため、株式会社加藤馨経営研究所の設立に携わり研究所所長に就任。その後、ケーズデンキに限定せず、幅広く流通市場を調査研究するため、2022年1月からコンサルティング会社「株式会社流通ビジネス研究所」を設立し、同年4月より活動拠点を新会社に移行

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA