第1四半期にみるイエナカ特需の反動

テレビ売り場のイメージ

※本記事は「株式会社加藤馨経営研究所」サイトにて執筆・公開した記事です。

ケーズHDの2022年3月期第1四半期決算が発表された。前年4~6月期は、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策として特別定額給付金が支給され、また6月の猛暑、さらには外出自粛に伴う「イエナカ」需要の高まりなどで家電販売が好調に推移。その反動となる今期は、前年同期比で減収減益となった。多くの量販企業に先んじて決算発表したこともあり(ノジマは先行して発表)、決算発表翌日の8月3日以降、ケーズHDの株価は大きく下げている。発表前日に決算発表への期待で大きく株価を上げていたこともあり、失望感が出た格好だ。

とはいえ、コロナ対策特需の反動が、想定以上に深刻だったのかというと、そこまでではない。

ケーズ2020年3月期1Q2021年3月期1Q前同比2022年3月期1Q前同比前々比
売上高164,808188,05214.1%180,757△3.9%9.6%
営業利益7,23115,907120.0%11,435△28.1%58.1%
経常利益8,33516,951103.4%12,523△26.1%50.2%
四半期純利益5,86511,53796.7%8,496△26.4%44.8%
ケーズHDの第1四半期実績(直近3期分) 単位は百万円 ※以下同

利益額の前年同期比25%以上減という数字はぱっと見インパクトが大きいが、前々同期と比較するとそれほどでもない。上表の右端列を見ると、2期かけて売り上げが1割弱、利益額が5割伸びたと考えれば順調な推移と言えるだろう。株価の下落は、コロナ対策特需の反動危惧が話題になっている中、競合他社に先行して決算数字を発表したことで、市場の思惑の影響を大きく受けた印象だ。今期の業績見通しに不安がないのであれば、自社株買いなど強気な姿勢を見せることも必要だったかもしれない。

競合も見てみよう。まずはヤマダHD。

ヤマダ2020年3月期1Q2021年3月期1Q前同比2022年3月期1Q前同比前々比
売上高376,435406,5208.0%382,987△5.8%1.7%
営業利益6,08122,628272.1%21,426△5.3%252.3%
経常利益7,65424,247216.8%23,728△2.1%210.0%
四半期純利益4,68615,885238.9%17,4139.6%271.5%
ヤマダHDの第1四半期実績(直近3期分)

住宅や環境ビジネスなどの新規事業の強化、大塚家具などのM&A、さらには持ち株会社(HD)への移行など、将来を見据えた取り組みを図ってきた中、近年利益面では物足りない実績となっていた。そのため、前々年同期比では利益が突出して伸びているが、売上高は微増にとどまる。コロナ禍の外出自粛にともなう「イエナカ」需要の恩恵を大きく受けているとはいいにくい状況だ。実際、2022年3月期第1四半期のデンキ事業は、前年同期比-14.9%。家電に特化しているケーズHDが-3.9%なので、落ち込みが大きい。

ジョーシン2020年3月期1Q2021年3月期1Q前同比2022年3月期1Q前同比前々比
売上高96,481107,11911.0%97,423△9.1%0.9%
営業利益1,5253,224111.3%3,2250.0%111.4%
経常利益1,5193,208111.1%3,2240.5%112.2%
四半期純利益1,2111,57630.2%1,97325.2%62.9%
上新電機の第1四半期実績(直近3期分)

上新電機は第1四半期における店舗増減が、2020年3月期は-1、2021年3月期は-2となっており、2022年3月期はプラマイゼロ。スクラップ・アンド・ビルドによる投資効果の改善を図っており、店舗数が減少しているため、「イエナカ」需要の恩恵はあったが、総売上高としては前々期比0.9%増と微増にとどまっている。

なお、エディオンは決算発表が遅れているので掲載していない。ここでは3社を取り上げたが、継続的に出店してきたケーズHDがコロナ禍での「イエナカ」需要の恩恵を最も受けている。一方で、利益面では、あるいはコロナ禍前の業績が比較的好調だったことから最も恩恵が少なく見えてしまう。構造改革や店舗再編を図っていた企業にとっては、恩恵により利益が飛躍的に改善する見え方となった。

2004~2020年度の商品構成別売上高の変化

さて、第1四半期の直近3期分の状況を取り上げたが、重要なことは目先の業績ではなく、もっと長期的な視点での変化だ。ここ20年弱で家電市場は大きく変化した。リーマンショック、家電エコポイントによる特需、デジタル放送完全移行に伴う買い替え、そして今回のコロナ感染拡大。市況が大きく上下に揺さぶられる中、主要な家電量販企業数も一気に絞られた。エディオン、ケーズHD、上新電機、ノジマ、ビックカメラ(コジマ)、ヤマダHD、ヨドバシカメラの7社にほぼ絞られた。

一方、国内家電市場規模は、GfK Japanのリリースによるとエコポイント特需が発生した2010年の9.4兆円前後をイレギュラーとして、ここ5年ほどは7兆円強で安定している状況にある。コロナ感染拡大に伴う外出自粛による影響があった2020年だが、GfK Japanのリリースによると2.9%増の7兆2,800億円(GfK Japan「2020年 家電・IT市場動向」)。外出自粛にともなう「イエナカ」消費には、エコポイント特需(地上アナログ放送停波にともなうテレビ買い替えを含む)から10年経過し、買い替え時期に入った薄型テレビ需要も貢献している。

エコポイント特需は、規模があまりに大きかった分、反動が大きく長期にわたり影響した。では、直近約20年で家電量販各社の事業構造はどのように変化したのだろうか。読み解くために、ヤマダHD、ケーズHD、エディオン、ビックカメラ、コジマの商品構成別売上の推移をまとめてみた。なお、各社が決算発表で開示している商品構成別売上高は、商品の区分けが異なったり、途中で見直されたりしている。たとえば最寄品やサービス料金なども企業によって「非家電」だったり、「家電」だったりする。本稿では「家電」「情報」「非家電」に集計しなおしたが、あくまで大まかな状況を把握するためのデータとして見てほしい。また、ビックカメラはコジマの子会社化に伴い商品構成別売上の公表値を途中で連結から単独に変更した。コジマも決算期の変更があるので、この2社の売上推移は連続性がない場所があることに注意してほしい。

商品別売上高の推移

グラフ中の青い軸が、AV商品や季節商品を含む「家電」売上。オレンジの軸が、パソコンや携帯電話などの「情報」売上となっている。一部、ピークの売上と直近2020年度の実績に数値を記載したが、多くの企業が特需が最大となった2011年3月期ばかりか、その前年の2010年3月期にすら実績が届いていない(ビックカメラ、コジマは8月期決算のため2010年8月)。

特にヤマダHDは、ベスト電器を子会社化、完全子会社化したにもかかわらず、売上拡大にほとんど寄与していないように映る。直近2020年3月期の「家電」実績は、ピーク時に対し約4500億円下回っている。また、もともと強みだった「情報」の実績も縮小しており、直近では「非家電」が「情報」を上回った。ちなみにケーズHDとエディオンの「情報」実績は、ヤマダHDほど大きく下がってはおらず、安定もしくは微減で推移している。

一方、ケーズHDは「家電」実績がすでにエコポイント特需の実績を上回っている。グラフを見ても、エコポイント特需の突出はあるものの、基本的には順調な右肩上がり成長。他社と比較しても、その違いは一目瞭然だ。大規模な店舗閉鎖を行うことなく、特需反動期にも着実に出店してきたことが大きな要因だろう。また、家電専門店として「非家電」に頼らず、シンプルに(情報を含む)家電販売に集中していることで、非家電事業の拡大に注力している競合に差別化できていることも背景にありそうだ。コジマの大量閉店、ベスト電器の事実上の縮小、競合の出店抑制などで、こぼれてきた家電需要を獲得している可能性が高く、国内家電市場で着実にシェアを高めている。

エディオンは、ミドリ電化の完全子会社化から、エコポイント特需を経ても、規模が横ばいで停滞感が否めない。先行して取り組んできたリフォームや太陽光発電を含む「非家電」も成長ペースが鈍い。駅前提案型店舗の出店などを行ってはいるが、出店エリアの拡大もそれほど進まず、自社ドミナントに進出してくる競合に必死に防戦している印象だ。グラフは「安定している」とも「停滞している」とも言える状況で、次の一手が見えにくい

ビックカメラは法人需要があり、さらにソフマップを子会社化するなど「情報」実績のウェートがもともと高かった。しかし、パソコン需要が伸び悩むと急速に「家電」にシフト。コロナ禍で成長の柱としていたインバウンド需要が急減した影響ももちろん大きく、直近決算では、郊外型量販が「家電」実績を伸ばしたのに対し、前年同期比約10%のマイナス。「非家電」実績も約14%のマイナスとなった。2019年はWindows 7のサポート終了および消費増税前の駆け込みでパソコンの買い替え特需が発生したが、「情報」実績も今後大きな成長要因が見当たらない。「非家電」におけるインバウンド以外の需要の取り込み、さらには駅前立地で「家電」需要をどこまで獲得できるかが大きなカギとなりそうだ。コジマについては、ビックカメラの子会社となり、一気に店舗整理を進めてきた。ビックカメラとの協業でゼロからやり直したようなものでプラス要因しかない。今後いつまでこの成長を維持できるかがカギとなる。

家電販売で差を生むのはリアル店舗

人口減少、少子高齢化の問題を抱える日本で、家電市場は安定しているとはいえ、微減傾向が続く見込みだ。その中でいかに事業の成長維持を図るか。これまで見てきたように量販各社の戦略は異なっている。

市場が停滞あるいは縮小する中での戦い方は、

  1. 取扱商品やサービスを広げ事業領域を拡大する
  2. 競合他社をM&Aして業界内での自社シェアを高める
  3. 市場での安定的な地位を維持しながら脱落した競合のパイを奪う

—―大きくこの3通りがある。このうち②は、2004年3月期~2021年3月期の各社業績を見るとあまりうまくいっていない印象だ。すでに競合企業数も絞られてきており、②よりもヤマダHDのように①の一環として、非家電領域の会社を買収することが主流となるだろう。とはいえ①に注力するばかりでは、主軸であるべき国内家電市場でのシェア縮小を招きかねない。いかにバランスよく全体業績の向上につなげられるか経営手腕が問われる。人流・インバウンド減少の影響を大きく受けたカメラ量販店を除き、コロナ禍でも比較的恵まれた状況にあった家電量販業界だが、アフターコロナを含む今後5~10年を考えれば、決して楽観できる状況ではない。

現状では、家電に特化しながら③の戦略をとるケーズHDが最も恩恵を受けている印象。商品構成別売上の推移をみると、ここ20年弱の期間における勝ち組は、現状ではケーズHDだろう。2021年3月期には、売上高でエディオンを抜き、コロナ禍で厳しい状況となったビックカメラとの差も約2000億円から約500億円まで一気に縮まった。最大の要因は、先にも述べたように、継続的に店舗数を増やし、出店エリアを拡大してきたことだ。ネット通販の拡大でリアル店舗の価値が下がると言われてきたが、外出自粛が叫ばれた中でも、こと家電についてはリアル店舗の充実度で差が大きく出たようだ。

当面はエコポイント特需で購入した大型家電の買い替えも続く。家電市場は大きな伸長こそ見込みにくいものの、底堅いだろう。筆者は、冷蔵庫や洗濯機、エアコンなどを中心に2020~2024年くらいは買い替えニーズが続くと見ている(買い替えサイクルを10~14年と考える ※テレビを除く)。景気に左右され多少需要のピークが前後することはあっても、おおむね量販各社の決算に悪影響を与えることはなさそうだ。しかし、10~20年後を見据えると、各社が自社の営業戦略の見直し、事業の再編を図る最後のチャンスの時期と見ることもできる。その意味では、各社が10~20年後の自社の姿をどのようにイメージしているのか、社内外に発信していくことが大切だと考える。

※本記事は加藤修一氏の見解ではなく、あくまで研究所所長 川添の見解で執筆されたものです

研究所長 川添 聡志

株式会社流通ビジネス研究所 所長 雑誌および書籍の編集者として出版業界に携わる。家電量販店向け業界誌『月刊IT&家電ビジネス』編集長を務めた後、家電量販企業に転職。営業企画やWebを含めた販促などを担当し、その後流通コンサルタントとして独立。ケーズデンキ創業者・加藤馨氏および経営を引き継いだ加藤修一氏の「創業精神」を後世に伝えるため、株式会社加藤馨経営研究所の設立に携わり研究所所長に就任。その後、ケーズデンキに限定せず、幅広く流通市場を調査研究するため、2022年1月からコンサルティング会社「株式会社流通ビジネス研究所」を設立し、同年4月より活動拠点を新会社に移行

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