ビックカメラが業績予想を上方修正

ビックカメラ新潟店オープン時外観

ビックカメラが4月6日、2022年8月期の業績予想の上方修正を発表した。子会社のコジマの郊外店で、年末年始に白物家電が伸びたことで、売上高、利益ともに想定以上となった。ビックカメラのIRリリースでは以下のように説明されている。

売上高は、新型コロナウイルス感染症の第6波による都市部への人流回復の遅れや一部商品の供給不足などを要因として、都市型のビックカメラにおいて伸び悩みましたが、郊外型のコジマにおいて、コロナ禍の長期化がもたらした消費者の行動変容もあり計画比好調に推移したことから、公表予想を上回る見込みとなりました。 利益面につきましては、主としてコジマにおいて、売上増加に加え、売上総利益率の改善により計画を上回る見込みとなったことから、各利益は公表予想を上回る見込みとなりました。

2022年4月6日 ビックカメラ「業績予想の修正に関するお知らせ」より

通期予想は、売上高は前年同期比3%減の8060億円を据え置いたものの、各種利益は上方修正。ウクライナ情勢を受けた、供給不足や新型コロナウイルス感染者数の再拡大など、不透明さが続く市場環境を織り込んでいる。以下には、ビックカメラ(連結)およびコジマ(非連結)の第2四半期の業績予想を掲載する。

ビックカメラ 2022年8月期第2四半期
連結業績予想 (連結)
売上高営業利益経常利益当期
純利益
前回発表予想(A)387,0005,0006,0003,000
今回発表予想(B)392,3009,43010,6604,770
増減額(B-A)5,3004,4304,6601,770
増減率(%)1.488.677.759.0
(参考)前年同期実績421,21110,25212,1175,682
コジマ 2022年8月期第2四半期
業績予想 (連結)
売上高営業利益経常利益当期
純利益
前回発表予想(A)131,4001,7001,7001,100
今回発表予想(B)138,5004,7004,9003,400
増減額(B-A)7,1003,0003,2002,300
増減率(%)5.4176.5188.2209.1
(参考)前年同期実績147,9345,1145,2213,513
(単位:百万円、%)

リリースで説明されているように、コジマの貢献度は大きい。売上高は、都市型店舗のビックカメラが期初予想を下回ったのに対し、郊外のコジマは期初予想を大きく上回った。営業利益、経常利益についても、上方修正額の7割弱をコジマが占めている。

とはいえ、決してコジマが絶好調というわけではなさそうだ。第2四半期の売上高営業利益率は、前期3.45%に対し、今期の当初予想は1.29%、修正後で3.39%だ。明らかに、当初予想が弱気だったことが分かる。

売上高についても、71億円上方修正したが、前年同期比は当初予想が88.8%、修正後が93.6%。ちなみに3月決算の郊外型量販企業の月次速報(2021年4月~2022年3月)の通期実績を見ると、ケーズHDが93.4%、エディオンが93.7%、上新電機が92.1%。月次速報はあくまで速報値であり、企業によって定義が異なるので、単純に比較できないが、2021年度の市場は前年比93%前後がトレンドということがわかる。期が異なるとはいえ、コジマの上方修正は、他の郊外量販企業並みの実績が見込めるようになっただけのようだ。

ビックカメラグループの業績予想は、都市型は想定以下、郊外型は想定以上という結果になったが、その背景を見てみよう。ビックカメラの2021年8月期の決算短信には、「今後の見通し」で以下のように書かれている。

前述の家電市場の反動減に加え、インバウンドマーケットについても依然として回復が見通せないものの、下期に向けて都市部の人流が回復すること、またインターネット通販事業や法人事業の更なる拡大を見込むことにより、グループ全体の売上高は前年同期比3.4%減の8,060億円を見込んでおります。

2021年10月13日 ビックカメラ「2021年8月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」より

一方、コジマの同期の「今後の見通し」には「巣ごもり需要等の反動減が予想されることに加えて、翌事業年度より適用される『収益認識に関する会計基準』の影響を考慮」と書かれている。つまり、

  • 新型コロナウイルスによる行動制限が長期化し、都市部人流の回復が想定以下だった
  • 郊外における巣ごもり需要の反動が想定より小さかった

――ということだ。コジマが好調とは言ってもあくまで期初業績予想に対して上振れしただけで、前期に対しては減収減益。ビックカメラとしては、新型コロナウイルスが落ち着き、駅前の人流が回復するという想定で業績予想をたてたものの、先行きの不透明さを踏まえ、コジマの業績予想を厳しくし、グループ全体としてのバランスをとったのかもしれない。

都市型店舗が厳しい背景

郊外における白物家電の好調(想定に対して)は利益面の改善につながる。そもそも白物家電は大型家電を中心に『買い替え需要』が中心。白物家電は、家電エコポイントのような特需がない限り、季節要因があっても比較的安定的な需要がある。一方、都市型商品には、AV機器やスマートフォン関連品、理美容、ゲームなど、生活必需品というより個人的な趣味性の高い商品が多い。いくら巣ごもり生活をしていても、使えるお金に余裕がなければ手が出にくい面もある。

さらには、趣味商品は白物家電のように需要が落ち込んだ後反動が出にくいことも見逃せない。住設、生活必需品という性格が強い白物家電は、買い控えた分の需要は先送りされる。いずれ不具合や故障が発生し、買い替えなければ生活に支障が出るためだ。一方で、趣味商品は買い控えしたからといって、一気に反動が出るとは限らない。だからこそ「欲しい」「買いたい」とお客が思った瞬間に買えることが大切な商品でもある。

そのような都市型商品に加えて、オフィス需要も都市型店舗の強み。しかし、そのオフィス需要も、働き方の変化という影響を受けている。オフィスに出勤する人数を制限する職場も出ており、当然消耗品などの購入頻度に影響が出る。この需要についても、買い控えた分を後々まとめて購入する見込みは薄い。新型コロナウイルスをきっかけに、リモートワークを推進したり、あるいは拠点を地方に移すなどの動きも出ている。新型コロナウイルスが落ち着いたら、以前と同じ状況に戻るか不透明だ。新型コロナウイルスが社会にもたらす「後遺症」が都市型店舗にどう影響するか今後注目する必要がある。

駅前出店は見直しか

元々コスト高な都市型店舗にとって客数減の長期化は厳しい。都市型店舗は、都市部の高い地代家賃を払いながら、駅前の好立地で大量に集客し、小物から大物、趣味商品まで幅広い品揃えで大きな売上につなげ、利益額を最大化するビジネスモデル。しかし、新型コロナウイルスまん延防止等重点措置の有無とは関係なく、人々の間にコロナウイルスへの警戒心がある限り人流や買い物行動はなかなか戻らないだろう。また、感染拡大防止の取り組みが長期化する中、買い物行動や自由時間の過ごし方なども変化している。加えて、ウクライナ情勢を受けてさまざまな商品が値上がりしている。家電も半導体や原材料不足による供給不足の懸念があるなど、不安要素が多い。

ビックカメラの場合、売上高販管費比率は、2019年8月期まで25%を切っていたが2020年8月期は1%ポイント以上上昇し25.8%、2021年8月期は26.4%まで上昇している(売上高と販管費からポイント販促費を差し引くと22~23%)。地代家賃の売上高比も、2019年8月期の3.90%から、2020年8月期は4.09%、2021年8月期は4.23%と上昇傾向にある。すぐ店舗再編が必要になる経営状況ではないが、人流減少の長期化を見据えた対策が必要だろう。とはいえ、ネット通販のさらなる強化、郊外でコジマががんばるくらいしか手がない状況だ。

このあたりの事情は、同じ駅前量販企業でも、自社物件での営業が多いヨドバシカメラと異なる。加えて、ヨドバシカメラは非上場ではあるが公表ベースで経常利益率は8%を超えており、売上減少に耐えるだけの十分な体力がある。また、ネット通販やスピード配送の面でビックカメラに対し一日の長がある。そもそも、中途半端な大きさではなく超大型店で、ニッチな商品まで圧倒的品揃えを実現するのがヨドバシカメラの特徴。その品揃えが全国をカバーするネット通販でも強みになっている。今後超大型店を出せるような駅も日本全国にそうそうあるものではなく、従来通りネット通販のさらなる強化を継続するだろう。

ビックカメラも基本的にネット通販強化の方針は従来通り変わらない。ただし、店舗展開という点では賃料が高いわりに面積がそれほど大きくない物件が少なくない。また、品揃えの面でもヨドバシカメラに見劣りする部分がある。新型コロナウイルス禍の長期化を受けて、どのように成長戦略を見直すのか注目される。駅前の人流減少が続き、インバウンド需要が当面見込めない状況は、中長期の成長戦略に間違いなく影響を与える。少なくとも駅前への新規出店は難しくなりそうだ。

新型コロナウイルス禍、そしてウクライナ情勢や世界的な半導体不足など、今の家電を取り巻く情勢は、時間が経てば元に戻るようなものではなさそうだ。カメラ量販だけでなく、家電量販各社が困難な状況下でいかに自社のビジネスモデルを進化させられるかが注目される。

ヤマダ電機が年商2兆円を達成した絶頂期の2010年4月にオープンさせたLABI新宿東口館。家賃は月2~3億円とも言われたが、新型コロナウイルス危機の中、2020年10月4日に閉店。郊外大型店を家具売場併設店にリニューアルする中、高コストな駅前店舗は活用が難しくなったと考えられる

研究所長 川添 聡志

株式会社流通ビジネス研究所 所長 雑誌および書籍の編集者として出版業界に携わる。家電量販店向け業界誌『月刊IT&家電ビジネス』編集長を務めた後、家電量販企業に転職。営業企画やWebを含めた販促などを担当し、その後流通コンサルタントとして独立。ケーズデンキ創業者・加藤馨氏および経営を引き継いだ加藤修一氏の「創業精神」を後世に伝えるため、株式会社加藤馨経営研究所の設立に携わり研究所所長に就任。その後、ケーズデンキに限定せず、幅広く流通市場を調査研究するため、2022年1月からコンサルティング会社「株式会社流通ビジネス研究所」を設立し、同年4月より活動拠点を新会社に移行

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