サーキュレーター購入に思う

蔦屋家電の売場

今回は個人的な家電の買い物について書きます。

今年2〜3月に自宅を引っ越し、夏に向けてエアコンを購入しました。電源に問題があり、専用回路としてエアコンを設置できるのは一ヶ所のみ。見積りに来てくれた工事業者と相談して、リビングダイニングとベッドのある寝室をまとめて冷やすため、単相100Vで最大の対応畳数14畳の冷房能力4.0kWモデルを選択。日中は仕事も含め、家ではリビングダイニングでほぼ過ごすので、リビングダイニングを冷やし、夜になったらサーキュレーターで寝室に冷気を送り込むというかたちにすることにしました。賃貸物件なのでエアコンは長く使うものではなく、価格優先でお買い得な機種を選びました。

問題はサーキュレーター。量販店の店頭に行っても、アイリスオーヤマや山善のモデルばかりで、プレミアムの位置付けはバルミューダ。どれもパッとしない印象です。個人的な考えでは、風を送り込むだけなので、リモコンや首振り機能、タイマーなどは不要。シンプルに送風に徹したいのですが、そうすると2000〜3000円のプラスチックの安っぽいものしかありません。このタイプは床に置くと振動が発生しやすく、また表面が劣化しやすい上、汚れを落とすのが大変。不要な機能のために1〜2万円以上出すのもそもそも無駄ですし、機能が増えれば増えるほどメンテナンスや清掃も面倒になります。

主要メーカー以外の家電を買おうと思うと、結局ネットに頼るしかありません。色々調べて購入したのが、ボルネード(Vornade)のVFANJR-JP。Amazonで税込11,000円でした。素材は鋼板でしっかりと重さがあります(羽根は樹脂製)。風量調整は背面のつまみで強弱のみ。とてもシンプルです。10畳用のコンパクトモデルですが、十分な風を隣室に送り込めます。強運転にすると風切り音がしますが、プラスチック製のサーキュレーターと異なり、しっかりとした風切り音。これはこれでいいかなと感じます。ボルネード社は、1940年代から航空機のプロペラの技術を生かしてサーキュレーターを作ってきた歴史ある会社ですから、機能はシンプルでも送風はパワフルです。どこかレトロなデザインもインテリアとして好みで、満足できる買物となりました。

ボルネード社のサーキュレーター
ボルネード社のサーキュレーター(10畳用)
ボルネードのサーキュレーターの背面スイッチ
背面のつまみで、オフ、強風、弱風を切り替える。操作はとてもシンプル。OFF→強運転→弱運転というモード選択順が独特

家電量販店が苦手なデザイン家電

このようなシンプル機能の家電は、家電量販店が一番苦手としている商品と言えます。多店舗で販売するだけの在庫を確保することが難しく、一方で販売量も決して多いわけではありません。そもそも価格を安くしたからといって販売量が増える商品ではなく、接客値引きで数を売る商品でもありません。加えてデザイン家電は価格が固定されていることが少なくありません。安さで量を売る「量販」業態とは親和性が低いのです。そもそもデザインやシンプルさを店頭で訴求することも難しいものです。家電量販店は国内メーカーを中心として、基本的に毎年モデルチェンジする商品を扱っており、どうしても新機能の訴求になりがちです。家電量販店が扱うデザイン家電・高級家電といえば、バルミューダが代表でしょうか。

デザイン家電や海外メーカーの高級家電は、所有する喜びや部屋に飾るインテリア性の訴求、値引きなしの正札販売といった商品特性上、百貨店や雑貨店向きと言えます。現在ではアマゾンやメーカー直販を中心に、ネット通販が主要な購入先となっています。

苦手とはいえ、家電量販店もチャレンジしてきました。都市型店舗を中心とするカメラ量販店では、デザイン家電や家電ベンチャーの商品を店頭展開を展開しています。また、ヤマダデンキも東京駅前の都市型店舗「Concept LABI TOKYO」(現在は、LABI東京八重洲)をオープンした際、目玉として「高級デザイン家電コーナー」を展開しました。情報感度の高い都市部のお客様向けの商品ではありますが、だからと言って数が売れるわけではありません。集客効果も微妙で、地代の高い都市部店舗で成功させる難しさを改めて認識させられました。

一方で、都市型店舗が得意とするデザイン家電・高級家電もあります。その代表がイヤホンやヘッドホン、スピーカーなどの音響家電。音響メーカーは海外の専業メーカーが多く、生産台数も決して多くはありません。生活家電と異なり、趣味性の高い家電は、少ない展開店舗数で多数の客が見込める都市部のカメラ量販店が得意としています。

生活家電と違って、どうして音響家電はうまくいくのでしょうか。音響製品で高級ブランドの販売を得意としているのはカメラ量販ですが、もともと趣味性が高く、高級モデルもあるカメラを扱ってきました。カメラや音響製品は、カメラ量販店が「専門店」としての強みを発揮できる商品ですから、生産数の少ない高級品でもメーカーと取引できるのです。お客様から見ても、郊外家電量販店や街の家電店で買うことができず、「買うならカメラ量販店」とイメージが直結しています(地方都市では郊外量販店の旗艦店がこの役割を担っている場合があります)。高級ヘッドホンなどは、指名買いも多く、その商品があるかどうかで店を選びます。また、詳しい店員に相談してから購入することも多く、接客には高度な専門性が求められます。詳しい販売員を確保できるかどうかも重要な要素です。趣味性が高い分、希少な商品に絶対的な価値があるのです。

一方で、サーキュレーターや調理家電といった小型家電の場合、機能面に差のない大量販売できる商品が国内メーカーを中心に多数品揃えされています。ヘッドホンの場合、安い物は2000~3000円、高い物は2~3万円どころか、10万円以上のものすらあります。しかし、小型家電の場合、そこまでの価格差はありません。売り場の商品構成を考える際には、タイプと価格帯を考えて商品を分散させ、売れ筋の価格帯には商品の種類を厚めに揃えます。その際、同じ価格帯で「機能がシンプル、少し高いがデザインが良い」といった商品は扱いが難しいのです。デザインの好みは人それぞれ、あらゆる要望に対応しようとするととんでもない数の品揃えが必要になります。

そこで、高価格帯の品揃えに「デザインモデル」という枠を1~2商品設けて、そこにバルミューダのように知名度があり、店頭販促に注力するメーカーの商品をあてがうのです。「このメーカーのこの商品が欲しい」には対応できなくても、「少々予算が高くなってもデザインのいい商品が欲しい」という要望には対応できます。これなら家電量販店の重視する「効率」を維持できます。ヤマダの「Concept LABI TOKYO」、あるいは「蔦屋家電」といったデザイン商品・高級家電を品揃えする店舗が、話題性は高くても商売としてなかなか軌道に乗らないのは、商売としての「効率」を確保できないためです。

最近では、ベンチャーによる従来はなかったような新ジャンルの家電、インターネットにつながり新しい使い方を提案するIoT家電なども、このような「効率」に合致しない家電に含まれるでしょう。

「量販」と「専門」の両立

家電量販店が成長してきた時代は、欲しい家電が多い時代でした。テレビやオーディオ、パソコン、電子レンジ、エアコン。いろいろな家電が普及率を上げていきました。しかし、現在では多くの家電が普及しきってしまい、転居や新生活の需要以外は買い替えが中心です。また、目立った機能進化もなくなり、普通に使う分には安い家電でも困ることはありません(故障などのトラブルは別として)。こういう環境では、お客様が家電に求める要素は多様化します。現在では、機能や性能、デザインだけでなく、環境配慮や企業の姿勢などを重視する人もいます。ベースにあるのは「ライフスタイル」ですが、「良い物=こだわり」とは限りません。重視しないものは割り切る、不要なものをそぎ落とすのも「ライフスタイル」です。

もちろん現在でも多数派は、従来のような家電購入スタイルですから、家電量販店としての商売に大きな影響はありません。とはいえ、家電購入のメインチャネルである家電量販店としては「専門店」として、このような多様化する商品購入にどこまで対応すべきなのか、考える必要はあるでしょう。家電量販店は、専門店だからこそ「家電」市場を寡占してきました。「専門」と「量販」はこれまでイコールといっていいほどに両立していました。しかし、国内大手家電メーカーの家電事業が弱体化する一方、ネットで幅広い商品が買える時代となり、消費が多様化するなど環境が変化しています。徐々に「専門」と「量販」の間にズレが生じているようです。実際に、テレビやネットなどの通販では「家電量販店では買えない」ことを売りにして商品を紹介しているケースも見られます。

個人的な印象ではありますが、家電量販店のチラシを見ても、店頭に足を運んでも、最近は「欲しい」と思う商品があまりありません。ワクワク感を感じないのです。株主優待券を使うのにも頭を悩ませる状況です。家電購入のメインチャネルとなった家電量販店は「安く買う」以外、魅力がなくなっているのかもしれません。

エディオン蔦屋家電のような取り組みもありますが、必ずしもデザイン家電や高級家電といった「とがった」商品を充実させることだけが解法ではないでしょう。たとえばリアル店舗の旗艦店に少数の在庫を持ち、在庫を自社ネット通販と共通化することで少数販売でも品揃えを成立させる。もしくは在庫を持たなくても取り寄せ対応を強化するなど、方法はいろいろあるはずです。とはいえ、家電量販店の稼ぎのほとんどを占める大手メーカーとの継続的な商談、従来からの取引を優先せざるをえず、そのような仕組みづくりも現実には容易ではありません。

家電市場は買い替え需要に支えられ非常に安定的ですが、一方で停滞感や閉塞感があります。デザイン家電や高級家電は、そのような閉塞感の象徴といえる存在なのかもしれません。しかし、今の家電流通市場を悲観する必要はなく、このような状況だからこそ、新しい取り組みなどの変化が生まれるかもしれません。家電流通史を見ても、家電市場が不振になったり、閉塞感が出た時は、淘汰が進む一方、次の時代を担う強いビジネスが生まれてきました。もしかすると、デザイン家電や高級家電も、家電量販店が魅力的な進化を遂げる材料の一つになるのかもしれません。

研究所長 川添 聡志

株式会社流通ビジネス研究所 所長 雑誌および書籍の編集者として出版業界に携わる。家電量販店向け業界誌『月刊IT&家電ビジネス』編集長を務めた後、家電量販企業に転職。営業企画やWebを含めた販促などを担当し、その後流通コンサルタントとして独立。ケーズデンキ創業者・加藤馨氏および経営を引き継いだ加藤修一氏の「創業精神」を後世に伝えるため、株式会社加藤馨経営研究所の設立に携わり研究所所長に就任。その後、ケーズデンキに限定せず、幅広く流通市場を調査研究するため、2022年1月からコンサルティング会社「株式会社流通ビジネス研究所」を設立し、同年4月より活動拠点を新会社に移行

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