ヨドバシが池袋に出店か?

ヤマダが三越池袋店跡に出店した当時の池袋

7月2日の日経新聞によると、セブン&アイ・ホールディングスが進めている「そごう・西武」の売却について、優先交渉権を得た米フォートレス・インベストメント・グループが、ヨドバシホールディングスとの連携を視野に入れているという。

セブン&アイ・ホールディングスが進めている百貨店子会社そごう・西武の売却について、投資ファンドの米フォートレス・インベストメント・グループが優先交渉権を得たことが2日わかった。提示額は2000億円を大きく超えたもよう。フォートレスは不振が続くそごう・西武の再建について、家電量販店大手のヨドバシホールディングスと連携に向けた協議も進めている。
(中略)
フォートレスは、西武池袋本店(東京・豊島)の施設内でヨドバシホールディングスが営業することも検討しているもようだ。セブン&アイとフォートレスは、従業員の雇用や店舗の改革を含めた詳細を詰めていく。ただ条件を巡って最終的な協議は曲折も予想される‥‥

そごう・西武売却、米ファンドが交渉権 ヨドバシ連携も (日経新聞オンライン 2022年7月2日)

2000年にそごうが破綻して以降、三越や丸井など百貨店の閉店が続き、多くの物件に家電量販店が出店しました。大型案件といえるのが、有楽町そごう(2001年ビックカメラ出店)、池袋三越(2009年ヤマダ電機出店)、新宿三越アルコット(2012年ビックカメラ出店)。ほかにも三越横浜(2005年ヨドバシカメラ出店)、丸井藤沢店(2006年ビックカメラ開店)、吉祥寺三越(元近鉄百貨店 2007年ヨドバシカメラ出店)、丸井大井町店(2007年 ヤマダ電機出店)などがあります。こうして挙げてみると、三越の閉店ラッシュが、家電量販店の出店に大きく寄与した印象です。

居抜き物件だけではありません。近鉄京都店の跡地にヨドバシカメラが2010年に京都ヨドバシを開業させたほか、西武札幌店跡地を含む土地にヨドバシカメラが主体となって複合商業施設を建設する再開発も進められています。

地方に目をやっても、2007年に十字屋仙台店にヤマダ電機がLABI仙台を、2021年に山梨県甲府市の山交百貨店跡地にヨドバシ甲府が開業。また、不振の百貨店に核テナントとして誘致されるケース、あるいは駅前再開発に伴う核テナントとしての誘致なども数多くあります。駅前に店舗展開をするヨドバシカメラ、ビックカメラのカメラ量販2社に加え、都市型店舗を展開するヤマダ電機(現 ヤマダHD)がほとんどですが、地方都市の駅前では、エディオンや上新電機が出店するケースも見られます。

百貨店の衰退

2000年以降、衰退した百貨店に取って代わる存在が家電量販店だったという印象です。では、百貨店はなぜ衰退したのか。よく挙げられる要因が以下です。

  • 消費行動の変化   駅前繁華街から郊外大型ショッピングセンターへのシフト
  • 人口構造の変化   百貨店は顧客の年齢層が高く、労働人口の減少に伴い顧客が減少
  • ブランド力の過信  自社で仕入れず委託仕入れ中心の「殿様商売」で、商売のノウハウがない
  • 専門業態の台頭   家電、家具、衣料品それぞれにカテゴリーキラーが登場し「百貨」の品揃えの価値が低下

2000年は流通業界にとって節目といえる年です。人口構造上、少子高齢化の影響が出始めた時期であるとともに、2000年6月には大店法が廃止され、大規模小売店舗立地法(大店立地法)が施行されました。郊外に大型ショッピングセンターがどんどんつくられ、百貨店に親近感が薄い若年ファミリー層は一気に郊外に流れていきました。百貨店に比べてリーズナブルなテナントも多く、特別な場(=ハレ)ではなく、日常づかいの場(=ケ)として定着したといえます。人口構造と出店規制の緩和、百貨店にとってはまさにダブルパンチで、以降衰退が加速しきました。

百貨店側も市場変化に対応しようと動きました。2006年11月には、三越が東京・武蔵村山市にオープンした郊外ショッピングセンター「ダイヤモンドシティ・ミュー」(現イオンモールむさし村山)に初のテナント出店を果たします。身近で、若者にも利用しやすい百貨店というコンセプトが話題となりましたが、支持は得られず早々に2009年3月に撤退。当時取材した中で聞かれた意見は、「そもそも三越を利用する人は、日本橋に行って買い物することを楽しんでいる。近くにあるからといって武蔵村山の店で済ませられると喜ぶわけではない」というものでした。郊外という戦場は、百貨店のブランド力に頼った商売が通用するような甘い戦場ではなかったのです。

一方で、駅前では、JRが運営する駅ビルが好調です。百貨店との違いは、適度にラグジュアリーで適度にカジュアル、そのバランスの良さにあると思われます。また、お客を飽きさせない、定期的なテナント構成の見直しなど運営の努力も見逃せないでしょう。百貨店も単にブランド力に頼るだけでなく、自社の強みを生かした独自の特徴、ノウハウを確立することが求められています。そごうや三越は、それができなかったからこそ、大型駅前物件にいくつもの空白地が生まれたのでしょう。

百貨店跡地に家電量販店

百貨店跡地に、家電量販店(主にカメラ量販店)が入ることが多いのには理由があります。

第一に、家電量販店は、ぜいたく品や趣味品という「ハレ」の買い物であると同時に、生活必需品という「ケ」の買い物でもあるということ。エアコン、洗濯機、冷蔵庫などの大型家電は約10年サイクルでの買い替え需要が発生し、景気に左右されにくい底堅い需要があります。同時に、安定的に自社で広域から集客できるわけです。

第二にオフィス需要が取り込めること。駅前に大型店舗を展開するカメラ量販店にとって、駅周辺のオフィス需要は大きな収入源です。高齢の富裕層だけでなく、オフィス需要を取り込めることも家電量販店の強みです。

第三に家電が高単価商品であるということ。駅前の高い地代家賃を負担できる収益を確保できます。

第四に、家電「専門」店には広い売り場を埋め尽くすだけの豊富な品揃えがあります。家電だけでも5000㎡以上の売り場を埋めることができますし、さらにカメラ量販は、スポーツ用品、ゲーム・玩具などを早くから扱ってきました。つまり、百貨店が入っていた大きな建物を、ほぼ自社商品だけで埋めることができるのです。商業ビル運営会社が運営する場合、魅力的なテナントを集めるなど手間をかける必要がありますが、家電量販店ならすぐに自社で開業できます。

このように、百貨店の大きな物件を運営できる業種業態は、家電量販店しかないと言えます。その中でもカメラ量販店は駅前物件の運営のノウハウを長年蓄積してきました。そして、物件開発に優れているのがヨドバシカメラです。大阪鉄道管理局跡に2001年に「ヨドバシカメラマルチメディア梅田」を、秋葉原の日本運輸倉庫跡地に2005年に「ヨドバシカメラ マルチメディアAkiba」を開業。いずれも土地を取得し、自ら超大型店舗を建設し成功させています。同じカメラ量販店でも、ビックカメラはJR物件を中心にテナント出店が中心です。空き物件が出たから出店するというスタイルで、既存物件をアレンジして自社店舗にするノウハウは豊富なものの、物件開発の経験はそれほどありません。

意地悪な言い方をすれば、厳選した商圏に巨額の投資をして自ら開発し、自社店舗、さらには商圏そのものを活性化するヨドバシカメラに対し、ビックカメラは空き物件に飛びつくかたちをとらざるを得ないのです。その差は大きく、フォートレスが「そごう・西武」を再建するためのパートナーは、どうしてもヨドバシカメラでなければならないのです。ただし、西武池袋本店については「テナント出店」と記事にあります。ヨドバシが2000年以降手掛けてきた自社物件店舗とはかなり条件が異なります。ヨドバシカメラは、甲府駅前の山交百貨店跡地に出店するなど、居ぬき出店もありますが、池袋はビックカメラの本拠地で、ヤマダ電機が巨艦店で戦いを挑んだ激戦地。居抜き出店はハンデとなるでしょう。ヨドバシカメラは自社店舗が成功する条件に基づいて物件を精査する手堅さがあります。テナント誘致を含め、物件全体を自社で運営できなければ、いくら池袋とはいえ、安易な出店はしないのではないでしょうか。このあたりの条件交渉が今後カギになりそうです。

ヨドバシカメラは、2019年にマルチメディア梅田の北側に「ヨドバシ梅田タワー」を建て、仙台にも「ヨドバシ仙台第1ビル」を2023年に完成させる予定です。2030年には札幌西武跡を再開発するほか、実質的創業地・新宿西口エリアの再開発計画も将来的に狙っています。非上場でありながら、梅田の1000億円近い土地を取得するなど、資金力のあるヨドバシカメラですが、あまりに性急な開発はさすがにリスクを伴うでしょう。これらの既存開発計画に加えて池袋に出店するとなれば、むしろテナント出店のほうが良い面もあるかもしれません。既存物件への出店はビックカメラやヤマダ電機の方が得意ですが、両社とも池袋にはすでに大型店があります。

いずれにせよ、駅前大型百貨店の立て直しにヨドバシカメラの名が挙がるのには理由があり、またヨドバシカメラでなければいけないわけです。フォートレスとしても、ヨドバシカメラと連携できなければ、「セブン&アイとフォートレスは、従業員の雇用や店舗の改革を含めた詳細を詰めていく」(前掲記事)と手間ばかりかかる難しい案件となります(※セブン&アイとフォートレスの間で検討されるこの条件も、出店する側のヨドバシカメラにとっては店舗運営の障害となるでしょう)。

ヨドバシカメラが池袋に出店――一見良さそうな話も、いろいろな角度から検証してみると、そう簡単な話ではなさそうです。フォートレスによる「そごう・西武」の売却、再建ももしかすると今後難航するかもしれません。

オープン当時のヨドバシAkiba
2005年9月オープン当時のヨドバシAkibaの外観。梅田と秋葉原という2つの大型自社物件を成功させたことで、
ヨドバシカメラは駅前立地の超大型店舗を開発・運営する能力の高さを知らしめた

研究所長 川添 聡志

株式会社流通ビジネス研究所 所長 雑誌および書籍の編集者として出版業界に携わる。家電量販店向け業界誌『月刊IT&家電ビジネス』編集長を務めた後、家電量販企業に転職。営業企画やWebを含めた販促などを担当し、その後流通コンサルタントとして独立。ケーズデンキ創業者・加藤馨氏および経営を引き継いだ加藤修一氏の「創業精神」を後世に伝えるため、株式会社加藤馨経営研究所の設立に携わり研究所所長に就任。その後、ケーズデンキに限定せず、幅広く流通市場を調査研究するため、2022年1月からコンサルティング会社「株式会社流通ビジネス研究所」を設立し、同年4月より活動拠点を新会社に移行

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