国内家電市場規模はGfK Japanのリリースによるとここ7年間は7兆強で推移している(POSベース)。地上アナログ放送の停波にともなうテレビの駆け込み需要に加えエコポイント駆け込み特需が発生した2011年は同社によると8兆5000円の市場規模。特需というピークから10年が経過した2021年は、7兆1700億円。2020年からの新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛、営業自粛などがあったものの、家電市場はイエナカ需要の高まりや特別定額給付金の支給もあり、2020年は前年比2.9%増。さすがに2021年は反動で1.5%減となったものの、流通業の中では比較的恵まれた状況にあるといえよう。(※ GfK Japanの「家電・IT市場動向」のプレスリリースはこちらから閲覧できます)
家電は生活必需品と趣味娯楽品という両面がある。冷蔵庫や洗濯機、エアコンなどは住設の一環として必需品に当たる。テレビは携帯なども必需品に含まれるだろう。一方で、美容健康商品、現在は需要が急減しているがオーディオやカメラなどは趣味娯楽品という側面が強い。必需品は、故障すれば買い換えが必要であり、買い替えサイクルに応じた底堅い需要がある。しかも、ほとんどが高単価商品だ。
単純計算ではあるが、家電の年間需要台数は以下の式で求められる。
国内世帯数×一世帯当たり保有台数÷買い替え年数=年間需要台数
実際の年間需要は上記計算結果よりも何割か低くなるが、大まかなベース需要の目安になる。内閣府消費動向調査を見ると買い替えサイクルは冷蔵庫や洗濯機、エアコンやテレビなど、ほとんどの家電で長期化し続けており、年間需要のベースも下がり続けている。さまざまな特需やその反動で揺れ動いた直近10年だが、国内家電市場の規模が今後大きく伸びるとは考えにくく、現在の7兆円規模をどこまで維持できるかが今後のポイントとなりそうだ。
国内家電市場が停滞、縮小すれば、家電量販企業の業績にも影響し、生き残りをかけた競争が激しくなるはずだ。しかし、現在の家電量販企業はそこまで厳しい競争環境にはない。どうしてなのか。そこにはヤマダHDの家電販売における影響力の低下が大きく関わっている。
家電市場でヤマダの存在感が低下
GfK Japanが公表している、毎年の国内家電小売市場規模、そして量販企業各社の家電売上高の推移をまとめてみた。GfKは暦年で2007年から(前年比増減のみの発表の年あり)、各企業の家電売上高は年度で2003年からの数値を掲載している。
図の説明でも触れているように、量販は年度(掲載企業はすべて3月期)、GfK Japanは暦年のため、実績のピークにずれが生じている。量販各社の家電売上高は、ゲームや玩具、GMS商品やハウジング事業を除いた、家電・IT売上の合計値を用いた。グラフを見ると、ケーズHDやエディオン、上新電機に比べて、ヤマダHDの売上高のエコポイント特需後の低調ぶりが目立っている。
もっと状況を把握しやすくするために、今度はGfK Japanの国内家電小売市場規模が発表されている2008年度を100%とした実績の推移を見てみよう。
黒い太線で描いたGfK Japan発表の国内家電小売市場規模の推移に対し、ケーズHDや上新電機の実績は上回っている。エディオンは停滞気味ではあるが、ヤマダHDだけは大きく下回っている。以前家電市場では圧倒的なポジションにあったヤマダHDだが、家電市場におけるシェアが低下し続けている。ヤマダHDはエコポイント特需により、2010年3月期~2011年3月期と年商2兆円を突破した。しかし、家電売上高については2013年度の消費税率アップに伴う駆け込み需要以降は右肩下がりで、他3社とは対照的だ。アナログ停波、エコポイントなどの特需での売上増加が大きかった分、その反動が大きいと見ることもできる。しかし、それだけなら得意の価格攻勢で競合の需要を奪い取ることも可能なはずだ。しかし、そのような結果になっていない。
家電販売事業は頭打ちか
ヤマダHDは、2011年10月にエス・バイ・エルを連結子会社化し、住宅事業に本格参入した。年商2兆円を達成し、家電市場でのシェアが20%を突破したヤマダHDとしては、人口減少、少子高齢化を迎える家電市場でさらなるシェアアップを図るのは難しいと考えたのかもしれない。さらには2019年2月に苦戦が続く大塚家具と業務提携し、その後子会社化、2021年9月に完全子会社化、2022年5月にはヤマダデンキ(家電販売を扱う子会社)を存続会社として吸収合併した。
2011年のエス・バイ・エル子会社化は、家電市場での強さを土台にしつつ、「家まるごと」提案で売上を積み上げる算段だったのだろう。だが、エス・バイ・エル自体、住宅販売で苦戦していた会社であり、子会社化したからといってすぐに収益で貢献できるわけではない。ここ10年間、ヤマダHDは、ヤマダHDならではの住宅事業の確立と収益化に取り組み続けたと言えるだろう。
その一方で、住宅事業を立て直すための投資を確保するために、稼ぎ頭である家電販売で競合に体力戦をしかけにくくなった面もある。業界の圧倒的首位であるヤマダHDが、競合に売価競争による体力戦をしかけなければ、他の量販企業は収益を確保しやすくなる。その結果、上記のグラフのような格差が生じたものと筆者は推測する。実際、販売現場からも、ここ数年ヤマダHDの価格攻勢がおとなしいとの声が少なくない。
国内家電小売市場におけるインターネット販売比率の変化も見逃せない、GfK Japanの発表によると、2011年は7.5%程度だったインターネット販売比率は、2021年についに20%に達した。家電は、ネット専業業者よりも実店舗を持つ家電量販のインターネット販売のほうが強みを発揮している状況だが、販売金額の2割までインターネット販売が拡大すれば、実店舗による拡大戦略を見直す機運も生じる。
ヤマダHDも2015年3月期の店舗数1016店舗(直営+子会社)をピークに、翌2016年3月期は947店舗、地方の小規模店舗の大量閉店なども実施した。その後徐々に店舗を増やし2022年3月期にようやく1015店舗とピーク時に戻した。その間にS&B(スクラップ・アンド・ビルド)を続け、売場面積の拡大、家電と家具をコラボさせた店舗を増やすなどしている。従来のままの積極出店では難しいとの判断だろうが、非家電が家電の売上減少をカバーするだけの実績につながっているのか、コロナ禍の影響があるとはいえ、その成果には疑問も残る。
話が少々それるが、先のグラフで、インターネット販売に弱いはずのケーズHDが、リアル店舗の出店で高いパフォーマンスをあげていることは、「インターネット販売により高コストのリアル店舗は徐々に不要になっていく」という一般的な論調の真逆で非常に興味深い。
ジレンマに陥ったヤマダ
そのような中で利益率向上のために取り組んでいるのが、独占販売商品やオリジナル家電。テレビではFUNAI、ロボット掃除機ではRoborockを独占販売。2021年からはオリジナルエアコン「リエア」(ハイセンス供給と思われる)の販売もスタートさせた。しかし、以前も本サイトで記事を書いたように、オリジナル家電(独占販売家電を含む)で高い販売実績につなげ、利益を拡大させることは決して容易ではない。ヤマダHDのこれらの商品の販売実績は不明だが、特に売れているという印象はない。
ヤマダHDが、新規事業を育てたい一方で、柱である家電事業で思うように戦えないジレンマを抱えているように、筆者の目には映る。家電量販業界では競合他社が恩恵を受け、一方の住宅市場では既存の強い大手との差を埋められない。もはや引くにも引けず、住宅事業をなんとか家電事業に並ぶ柱に育て上げるしかないのではないか。これも、2000年代に入り余りに急速に業績を拡大させた反動と言えるかもしれない。
家電販売と住宅販売、さらには家具やGMS商品、金融も組み合わせた新業態の開発に取り組んでいるヤマダHDとしては、既存の競合と単純比較されるのは本意ではないだろう。しかし、インターネット販売ではヨドバシカメラを代表とするカメラ量販、住宅販売では規模で大きく上回る競合が多数と、周囲を強い敵に囲まれた状況で、核である家電事業が落ち込んでいる現状は、はたから見ると心配になる。山田昇代表取締役会長兼社長 CEOは来年2月で80歳。ヤマダ電機からヤマダHDへと巨大化した会社をどのように仕上げるのか、その手腕に注目したい。
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