電気用品安全法の見直し

PSEマークや安全対策の取り組みを説明するAnker社のページ

2月26日の日経新聞に「違法な海外家電通販の規制強化案、夏までに 事故多発で、経産省検討」という記事が掲載されている。

安全証明がない違法な海外家電による事故が多発しているとして、経済産業省が規制強化に乗りだす。電子商取引(EC)サイトで手軽に購入できるモバイルバッテリーなどの事故が目立つ。販売元を特定しにくく事故が起きた際に賠償責任を問えないケースもある。欧州連合(EU)の規制案も参考に、今夏までに具体策をつめる。

電気用品安全法など製品安全4法は約490品目の電気・ガス用品などについて、メーカーや輸入事業者らが安全性を証明する「PSマーク」を付けなければ国内販売できないと定めている。海外の業者が日本の消費者に販売する場合も規制対象だが、十分守られていない。(以下はリンク先で)

日経新聞オンライン2月26日「違法な海外家電通販の規制強化案、夏までに 事故多発で、経産省検討」より抜粋

筆者はよくアマゾンを利用するが、モバイルバッテリーやワイヤレスイヤホン、照明、USB充電器、電源タップなどは、商品検索をすると中国製品ばかりが出てくる。商品名の欄に「令和5年最新版」「2023新登場」などの記載がある商品はたいてい中国製品だ。メーカー数がとにかく多く、しかも写真ではメーカーの違いが分からないそっくりな商品も多い。さらに謳っている性能に対してとんでもなく安い。しかし、実際のところ、YouTubeなどに検証動画がたくさんあがっているが、表示スペックどおりの性能・機能があるとは限らない。特に危険なのが、リチウムイオン充電池を内蔵している製品だ。モバイルバッテリーやワイヤレスイヤホン、スティック掃除機やロボット掃除機、電動工具の本体およびその交換バッテリーなどが代表的だ。上記記事では実際に事故事例も紹介している。

21年10月に千葉県で発生した火災ではネット通販で購入した海外製モバイルバッテリーが出火し、自宅の床や壁、ベッドなどを焼いた。ECサイトの運営者に連絡し、メーカーを把握しようとしたが、特定できなかった。

日経新聞オンライン2月26日「違法な海外家電通販の規制強化案、夏までに 事故多発で、経産省検討」より抜粋

消費者庁では2019年7月に「モバイルバッテリーの事故に注意しましょう!」という注意喚起を行っており、今回の規制強化の検討は遅いくらいと言ってもいいだろう。事故の多いリチウムイオン電池も、当然だが電気用品安全法の対象となっている(特定電気用品以外の電気用品341品目の1つ)。ちなみに同じく家電量販店にある商品でも、石油ストーブはPSC、ガスコンロはPSTGマークやPSLPGマークなどがあり、これらをまとめてPSマークと呼ぶ(製品安全4法で規制)。

電気用品安全法は、電気用品による危険及び障害の発生を防止することを目的とした法律で、電気用品の製造・輸入・販売を事業として行う場合の手続きや罰則を定めている。電気用品安全法に違反して「PSE」マークが表示されていない電気用品を販売したり、販売の目的で陳列したりすると、法人の場合1億円以下の罰金、個人は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となる。先の記事にも書かれているように「海外の業者が日本の消費者に販売する場合も規制対象だが、十分守られていない」のが現状だ。

ネット通販では、PSEマークのない中国製品はクレームや批判的なコメントが出ると、ブランド名や社名を変えて出品するようなケースもある。製品に起因する事故が発生して、損害賠償を請求しようにもすでに会社がないといったケースもあり、火災や怪我などの被害を負った消費者が泣き寝入りせざるを得なくなる。本来ならアマゾンや楽店のようなネット事業者が責任を負うべきではないかと感じるが、これらのネット事業者が製品を直接販売(仕入販売)しているわけではなく、ネットサービスとして出店させているにすぎない。

レコーダー背面のPSEマーク表示
ブルーレイディスクレコーダーの丸いPSEマーク
特定電気用品である電源タップのPSEマーク表示
レコーダーと異なり電源タップは特定電気用品なので、ひし形のPSEマーク

とはいえネット事業者も無責任に放置しているわけではない。例えばアマゾンは、出品に際して「PSE審査」を設けており、電気用品製造事業届出書や電気用品輸入事業届出書などの提出を求め、PSEマークが製品に正しく表示されているか、さらには自主検査記録や登録検査機関が発行した適合性検査証明書などの提出も求めている。審査を通過しなけなければ出品できない仕組みとしている。しかしながら、それでも中国製品が急増する中、違法出品を防ぎきれていない状況だ。不良品や事故が多くなりネット販売のトラブルが社会問題化すれば、ネット事業者にとっても大きな痛手となるのは間違いない。電気用品安全法の見直しにあわせてどのような対策を取るか注目される。

だれもが気軽にネット通販を使うようになった現在、法律が実態に追いついていないことが大きな問題だ。電気用品取締法が電気用品安全法に改題されたのは2001年4月。ちなみにアマゾンが日本でサービスを開始したのは2000年11月で、当初はオンライン書店だった(参考 Internet Watch「Amazon.comが日本でのサービスを開始、まず和洋書の販売から」)。今の状況が当時とかけ離れているのも当然だろう。

粗悪な電気製品から身を守る

現在では、中学生や高校生も当たり前のようにスマートフォンやワイヤレスイヤホンを持っている。若い世代ほどSNSや動画視聴などのヘビーユーザーで充電切れを起こすことも多く、モバイルバッテリーを常時持ち歩く人が多い。年代的に使える予算も限られており、さらには物価高もあって、安価なモバイルバッテリーやワイヤレスイヤホンを買う人が少なくない。しかし、「安くても安全」というのは、あくまで日本国内で主要家電メーカーの製品を購入した場合の話であり、安全基準の異なる海外製品を同様に考えることは危険だ。

特にリチウムイオンバッテリーはもともと反応性が高く、不安定な構造だ。使用されているリチウムは最も軽い金属で、反応性が高い。単体のリチウムは、空気中の窒素とも容易に結合し、水に放り込めば爆発的な燃焼を起こす。このような反応性の高さが、電池としてのエネルギー効率の高さにつながっている。化学が苦手な人は、危険物質をいかに爆発しないように抑え込むか、工夫を凝らした繊細な電池と考えてもらうといいだろう。不安定だからこそ、充放電時の反応速度の制御や温度管理、電圧や電源の管理をしっかり行わないといけない。万が一の場合に備え安全回路の設計も必要だ。また、落下や衝突などの衝撃で電池内部の構造が破損すると、ショートしたり、反応速度を制御できなくなったりする。怖いのは、このような小さな破損が「破裂」「爆発的燃焼」という重大事故につながる点だ。ひとたび反応が進むと、消火器を使っても容易に鎮火できない。

安易に「安さ」を求めることにはリスクが伴う。危険度は違うが、電源タップや照明器具なども、製品自体の安全管理機構がしっかりしていないと接続した機器の破損、発熱による火災などのリスクがある。PSEマークは決して「飾り」ではなく、消費者が自身の安全のためにしっかり確認すべきマークなのだ。なお、電気用品安全法は、販売事業者も対象となっているので、家電量販店や地域電気店、ホームセンターなども含め、リアル店舗はもちろん、それらの企業が運営するネットショップでも、PSEマークのない商品を販売することはない。安全を考えるなら、購入先を選ぶこともひとつの手だろう。

ただし、大手メーカーが手を引いてしまった電気製品、あるいは機能的に大手メーカーが弱い電気製品もある。モバイルバッテリーもそうだが、IoT家電をつなぐネットワーク機器なども大手メーカーには商品がない、あるいは機能が少なかったり制限されていることが多い。どうしても中国製品に頼らざるを得ない場合もある。

このような場合、自営する手段は、第一に購入前にPSEマークがあるか確認すること。容易に社名変更するような会社ではないという確認のためには、国内に営業拠点や契約卸会社があるかもチェックしたい。販売拠点や卸会社があれば、電気用品安全法の対象となり、PSEマークのない製品を販売できない。また、パソコンやルーターなどは電気用品安全法の対象ではないが、附属するバッテリーやACアダプターは対象。無線を使用する機器なら技適マークもチェックしたい。技適マークの無い無線機器の使用は違法になることに加え、しっかりした製品なら日本国内の必要な認証を取っているはずだ。

またリチウムイオン電池を搭載する機器を充電したり、使用したりする際には必ず近くにいるようにすることも大切だ。万が一、発火した場合、類焼を防ぐことにつながる(発火時は危険なので近づかず、燃焼が落ち着いてから類焼を防ぐ)。大容量バッテリーほど充電時間が非常に長く、寝ている時間や外出時に充電しっぱなしにすることも多い。しかし、外出時に自宅で発火すれば火災被害が拡大しかねない。「目を離すな」とまではいわないが、万が一を考えて利用するよう心がけたい。

さらに、衝撃を加えたり、熱がこもったりしないよう使い方にもしっかり配慮する。本体がふくらんだり、異様な発熱があるような症状が見られたら使用をすぐに停止すべきだ。なお、リチウムイオン電池を含む充電池は、廃棄にも注意が必要だ。リサイクルマークのない充電池は、回収ボックスや家電量販店店頭での引取ができない。外観が破損していたり膨張していたりする充電池は、リサイクルマークがあっても回収してもらえないことが多い。詳しくは一般社団法人日本電池工業会のページを参照されたい(リンク)。

ロボット掃除機の底面。PSEマークがない
ロボット掃除機「ルンバ」の底面。コンセントを挿して使う機器ではないのでPSEマークは無いが、無線通信を行うので技適マークがある
バッテリーカバーを外したところ。バッテリーにPSEマーク表示
内蔵するバッテリーは電気用品安全法の対象であり、PSEマークがある。またバッテリーのリサイクルマークもしっかり表示されている

ネット通販の拡大で、購入する商品選択の幅は大いに広がった。しかし、安さだけを基準に購入することは大きなリスクを伴う。自由には常に責任が伴うように、さまざまな商品をネットで購入できるからこそ、正しい情報を調べて自衛することも必要だろう。

電気用品安全法の見直しにあたって

「電気用品安全法」は、我々が電気製品と生活するうえで安全を確保するための大切な法律だ。しかし、現状に合っていないのは「ネット購入」だけではない。

筆者は自宅をスマート化しており、照明やエアコン、防犯カメラ、さらには玄関のカギなどもすべてネットワークで管理できるようにしている。スマートスピーカーを通して声で操作したり、外出先からスマートフォンで操作したりできるようにしている。ところがネットワークにつないだ家電の操作では、照明を除くと、日本メーカーの家電の多くが、いちいちメーカーの専用アプリを起動しなければならなかったり、あるいは操作するたびに「実行しますか?」と確認する手順が必要だったりする。

これも電気用品安全法の「遠隔操作」に関する規定によるもの。2012年にパナソニックは外出先からスマートフォンで操作できるエアコンを発表したが、発売直前に遠隔操作の機能を省くことになった。これは、電気用品安全法の安全技術基準において、遠隔操作でオンにしても危険のない家電製品のリストにエアコンが記載されていなかったため。2013年5月に安全技術基準の解釈の一部を見直した結果、現在は外出先からの電源オンも可能になったが、まだまだIoT家電の先進機能に対応しきれていない面もある。ちなみに電気用品安全法の対象にモバイルバッテリーが加えられたのは2018年2月。経過措置期間1年を置いて、2019年2月以降はPSEマークのないモバイルバッテリーは販売禁止となっている。

利便性と安全性をいかに折り合いをつけていくか。インターネットやスマートフォンの普及、さらにはオンラインショッピングの浸透など、電気製品を取り巻く環境は、劇的な変化を見せている。対応する法令の整備が追い付かない状況が見られるのも致し方ないだろう。ただし、消費者がそのような法令について知る機会は多くないことも現実だ。

いくら製品が安くても、表記されているとおりの性能がなかったり、あるいは設計上の安全性確保、安全性の検証、リコール情報の提供といった部分を犠牲にしたコストダウンを図ったりしていれば元も子もない。現在も家電販売のシェアの6割以上を家電量販店が占めていると言われるが、単なる価格訴求だけでなく、家電を安全に使うルールに基づいた販売を行っていることももっと知ってもらうべきだろう。規制などでいくら製品の安全性を確保しようとしても、ネット販売がルール無用の野放しでは意味をなさない。今回の電気用品安全法の見直しに合わせて、リアル店舗の存在意義ももっと知られるべきだ。無警戒にネット通販でリスクのある製品に手を出さないよう、正しい情報を提供し啓蒙することも、今後リアル店舗を展開する流通に求められる大切な役割ではないだろうか。接客する販売員にも、電気用品安全法については、ぜひ説明できるようになってほしい。

※中国メーカーがすべて粗悪というわけではない。電源タップやモバイルバッテリー、プロジェクターやワイヤレスイヤホンなどを展開する中国のAnker社は、安全対策意識が高い。自社ホームページで、電気用品安全法とPSEマークについて丁寧に説明するとともに、自社の安全対策の取り組み、さらにはモバイルバッテリーの使い方の注意喚起をしている。またリコール対応などもしっかりしており、日本の規制に対応しているからこそ、家電量販店のリアル店舗でも取り扱われている。本記事では、アイキャッチ画像で掲載しているが、こちらのリンクから当該ページをぜひ見てほしい。

研究所長 川添 聡志

株式会社流通ビジネス研究所 所長 雑誌および書籍の編集者として出版業界に携わる。家電量販店向け業界誌『月刊IT&家電ビジネス』編集長を務めた後、家電量販企業に転職。営業企画やWebを含めた販促などを担当し、その後流通コンサルタントとして独立。ケーズデンキ創業者・加藤馨氏および経営を引き継いだ加藤修一氏の「創業精神」を後世に伝えるため、株式会社加藤馨経営研究所の設立に携わり研究所所長に就任。その後、ケーズデンキに限定せず、幅広く流通市場を調査研究するため、2022年1月からコンサルティング会社「株式会社流通ビジネス研究所」を設立し、同年4月より活動拠点を新会社に移行

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