ジャーナリストの立石泰則氏が執筆された、ケーズデンキ創業者・加藤馨氏の評伝が岩波書店から発売されました。
立石 泰則・著『正しく生きる ケーズデンキ創業者・加藤馨の生涯』(岩波書店)
岩波書店Webサイトより
終戦直後の焼け野原のなかで妻と二人で始めたラジオ修理店を、全国有数の家電量販店へと育て上げた加藤馨。「会社はそこで働く全員のもの」とする、彼のユニークな会社観、経営哲学はどのようにして生まれたのか。生い立ちから戦争体験、起業、引退後の暮らしまでを、丹念な取材によって明らかにし、その人生を戦後家電流通史とともに描き切った壮大なノンフィクション作品。
パナソニックやソニーといったメーカー、ヤマダ電機やケーズデンキといった流通、製販両面から家電業界全体を長く取材してきた立石氏だからこそ書けた評伝です。生い立ち、戦争体験、そして戦後にラジオ修理店を始め、後のケーズデンキの土台となる経営思想を築いたその背景に詳しく迫っています。立石氏は、柳町事務所に眠る多くの資料を丹念に調べ、ひとつひとつの出来事の背景を解き明かしながら、加藤馨氏がどうして「人を大切にする経営」「がんばらない経営」「会社はそこで働く全員のもの」という経営思想に至ったのか、そして創業当初からどのように経営思想を実践してきたのか、明らかにしています。
加藤馨経営研究所を立ち上げたメンバーとして私も微力ではありますが、加藤馨氏が残した資料の整理、あるいは古い記事や外部資料などを探すなど手伝わせていただきました。とはいえ立石氏の執筆も困難を極め、最終的に実に456ページの長編となり、とても読み応えのある書籍となっています。世の中によくある「経営者の成功談」ではありません。日本が経験した戦争、家電流通史を学べるとともに、正しく優しさにあふれた魅力的な人物の生涯を追体験できます。ふだん読書をされない方は、書籍の厚さに尻込みするかもしれませんが、内容はとても読みやすいので、経営者や家電業界関係者に限らず、幅広い方に読んでいただきたいと思います。
昨今、米国経済界でも「会社は株主のもの」から「会社は従業員のもの」に考え方がシフトし、社員満足度の重要性などが注目されています。しかし、そのような世の中の潮流とは関係なく、加藤馨氏は「人を大切にする経営」を創業当初から実践してきました。「きれいごとでは経営はできない」という声もよく聞きますが、加藤馨氏が創業した加藤電機商会は、「ズルをせずに正しく」「人を大切に」しながら厳しい競争環境を勝ち抜き、現在ではケーズホールディングスという、日本を代表する流通企業の一つになっています。加藤馨氏の「人を大切にする経営」に、ようやく時代が追いついたと言えるかもしれません。
本書を読み、加藤馨氏の生き方や思想を知り、共感する人が一人でも多く増えることを期待します。
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