ノジマの下請法違反について

ノジマの店舗入り口の画像

6月29日 公正取引委員会は、家電量販店ノジマに対し、下請法違反で再発防止の勧告をした。

参考記事 公取委、下請法違反でノジマに勧告 オリジナル商品で下請け費を減額 (Yahoo!ニュース 朝日新聞DIGITAL)
     ノジマが7千万円不当減額 下請法違反で公取委勧告 (日経新聞)

  公正取引委員会の報道資料によると、ノジマオリジナルの家電製品等の製造を請け負う下請事業者2名に対し、下請代金から総額7310万円を、拡売費、物流協力金、セールリベートなどの名目で減額して支払ったという。

下請法では、親事業者(発注側)が資本金3億円超の場合、下請事業者を資本金3億円以下と定義しており、今回のノジマの場合も、下請事業者は資本金3億円以下である。親事業者の義務とされているのは、以下である。

  • 書面の交付義務(第3条)
  • 書面の作成・保存義務(第5条)
  • 下請代金の支払期日を定める義務(第2条の2)
  • 遅延利息の支払義務(第4条の2)

一方、禁止事項としては、

  • 受領拒否の禁止(第4条第1項第1号)
  • 下請代金の支払遅延の禁止(第4条第1項第2号)
  • 下請代金の減額の禁止(第4条第1項第3号)
  • 返品の禁止(第4条第1項第4号)
  • 買いたたきの禁止(第4条第1項第5号)
  • 購入・利用強制の禁止(第4条第1項第6号)
  • 報復措置の禁止(第4条第1項第7号)
  • 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(第4条第2項第1号)
  • 割引困難な手形の交付の禁止(第4条第2項第2号)
  • 不当な経済上の利益の提供要請の禁止(第4条第2項第3号)
  • 不当な給付内容の変更・やり直しの禁止(第4条第2項第4号)

——が定められており、今回のノジマは上記リストの2番目「下請代金の減額の禁止(第4条第1項第3号)」に違反する行為と指摘された。公正取引委員会の報道資料には以下のような強い言葉も併記されている。

下請法は、下請事業者の責任がないのに、発注時に定められた金額から一定額を減じて支払うこと等を全面的に禁止している。値引き、協賛金、歩引き等の名目、方法、金額の多少を問わず、また、下請事業者との合意があっても、下請け法違反となる。

令和5年6月29日公正取引委員会 報道資料「株式会社ノジマに対する勧告について」より ※太字は筆者による

「全面的に禁止」「名目、方法、金額の多少を問わず、下請事業者との合意があっても下請法違反」という言葉から、どのような理由があっても「下請代金の減額」は許さないという姿勢が伺われる。当然だ。入金されるはずの金額が知らぬ間に減額されれば資金繰りに影響し、倒産につながりかねない。支払う側の企業規模が大きいだけに、生殺与奪権を握られるようなものだ。

今回注目されるのは、家電量販店でよく問題になる優越的地位の濫用(独占禁止法)ではなく、下請法という点だ。一般に家電メーカーと家電量販店、いわゆる製販の関係であれば、独占禁止法になる。しかし、今回はノジマのオリジナル家電での取引であり、ノジマは製造を発注した立場。下請け業者への支払代金から勝手に減額したことにより下請法違反となった。支払代金を減額した総額約7310万円の内訳は以下のとおり。

拡売費                約5403万円(下請事業者1名)   
物流協力金    約833万円(下請事業者2名)
セールリベート    約575万円(下請事業者1名)
キャッシュリベート    約474万円(下請事業者2名)
オープンセール助成    約19万円(下請事業者1名)
発注手数料    約3万円(下請事業者1名)
総額    約7310万円
和5年6月29日公正取引委員会 報道資料「株式会社ノジマに対する勧告について」より

総額の約74%を占めるのが拡売費。対象となる下請事業者は1名で、負担の大きさが伺われる。「拡売費」というのは、一般に、商品の販売を拡大するためにメーカーが支払う費用で、陳列棚の確保や装飾などの費用、小売店で行われる値引きやクーポン、キャッシュバックなどの販促キャンペーンの原資などが該当する。

また、他のセールリベートやキャッシュリベート、オープンセール助成なども含め、いわゆるリベートであり、大手家電メーカーなら、長年の商習慣で支払っているケースも少なくない。もちろん、リベート要求の仕方や内容次第では「優越的地位の濫用」となることは言うまでもない。

これがオリジナル家電となれば話は別。メーカーから商品を仕入れているのではなく、製造を委託している。メーカーの既存製品を一部仕様を変更して自社ブランドとして販売する場合も同様だ。あくまで流通が自社製品として販売するのであり、製造委託先メーカーに対して、大手家電メーカーのプロパー製品(正規の流通ルートを通して卸されて販売される定番商品)と同じように販売協力金を要請するのはお門違いだ。

プロパー製品の場合、競合製品などの実勢売価が下落すれば、対象商品の仕入価格を見直したり、拡売費名目でリベートを提供したりするなど、大手家電メーカー側も拡販のために流通を支援する。特に家電量販店は国内家電販売の6割以上のシェアを有しており、メーカーとしても流通との協力関係は重要だ。

ではオリジナル家電の場合はどうか。市場の同等品の売価を見つつ、お得感を出せるような販売価格を実現できるように、製造原価を抑えて委託する。例えば、販売当初プロパー製品が新販売で粗利25~30%なら、オリジナル家電は40~50%確保できる(実際の粗利率は商品によって異なる。サプライ品や小物は比較的粗利率が高い)。だからこそ、「オリジナル商品は利益率の向上に役立つ」と各社が力を入れる。

しかし、家電の場合、実勢売価は常に変化する。家電は販売サイクルが1~2年でその間価格は下落し続ける。同等品の実勢価格が3割減少すれば、プロパー製品は粗利がほぼなくなる。そこで、原価見直し、値引き対策費といったリベートを提供するなどして15~20%程度の利益を確保できるよう、メーカーが流通に対して便宜を図る。さらには、販売数量目標の達成リベート、あるいは同一メーカーの販売増領に対する期末リベートなどもあるだろう。結果的に、価格下落の影響を大きく受けずに利益を確保できるような商習慣が存在する。

一方、オリジナル製品の場合、同等品の売価が3割も下がると、店頭でかなり割高になってしまう。そこで価格を見直すのだが、あくまで自社製品なので、仕入原価に当たる製造原価はすでに固定されている。また、達成リベートや期末リベートもない。価格を大きく下げずに売っても、在庫が残れば在庫管理にも費用がかかる。プロパー製品ならば、旧品処分のための支援リベートの提供、あるいは市場売価の維持のため返品を受け入れてくれるケースもあるが、オリジナル製品は叩き売るにも廃棄処分するのも自社責任だ。

「オリジナル製品は利益率向上につながる」というが、それは売価がほぼ固定されているコンビニや、ある程度価格が維持され値引き交渉が存在しないスーパーやホームセンターの話(ユニクロ、ニトリなどのSPAは除く)。相対値引きや、商品の価格下落が当たり前の家電とは異なる。逆を言えば、この価格変動があるからこそ、独自の商習慣に支えられて家電量販店が「専売」状態が維持されている面もあるのだ。

このような価格変動の特性、オリジナル製品の向き不向きを理解せずに、製造委託先メーカーに従来の商習慣だからとリベートを要求すれば完全にアウト、グレーではなく真っ黒だ。ノジマは「エルソニック」などオリジナル商品に力を入れているが、このようなことすら社内に周知していなかったことにむしろ驚く。プロパー製品でさえ、売場における展示装飾やPOPなどの製作費を流通がメーカーに要求すればアウトとなることも少なくない。「オリジナル製品は儲かる」と軽く考え過ぎではと非難されてもしかたないだろう。

「ヘルパー不在=親切」ではない。

ちなみに、ノジマは「メーカーからの派遣販売員がいない」ことを売りとしている。ノジマのホームページには、以下のような記載がある。

メーカーからの派遣販売員の方も、しっかりと接客対応はしてくれるでしょう。ですが、お客様の立場から見ると、ひとつのメーカーの商品のみを提案されることになり、本当に自分のニーズに合っているものを提案してもらえるとは限りません。そのため、ノジマではメーカーの派遣販売員を一切入れず、すべて自社雇用の従業員が接客するようにしています。

ノジマホームページ 【カンブリア宮殿で話題に】ノジマの感動接客「コンサルティングセールス」とは?

メーカー販売員、いわゆるヘルパーは家電業界に長く存在する。決してほめられた商習慣ではないが、現在では、ヘルパーも自社商品しか売ろうとしないわけではない。中には、家電量販店の販売員よりも空調家電や調理家電に詳しい人もいる。もちろん、逆もしかりでまともに接客も挨拶もできない人もいるが、筆者の印象では、グイグイと押しが強い携帯電話や通信のヘルパーに比べ、家電ヘルパーはちゃんと接客ができる人が多い。ヘルパーは本来売場にとって異物ではあるが(店舗との雇用関係が存在しない)、いわば家電量販店を働き場所として共存しているような状況だ。

確かにメーカーから派遣されるヘルパーは、自社製品を売ってなんぼ。他社製品を購入しようとするお客を、自社製品に考え直させるようなこともかつては散見された。しかし、現在ではヘルパー派遣自体がリベートのような側面がある。店舗における自社製品の販売台数を追い求めるより、量販企業との良好な関係を維持する意味合いが強い。ヘルパー自身も、店舗との良好な関係を築くべく、お客に失礼のない接客をする人が多い。

一方、ノジマの場合、筆者が店頭で接客を受けたり、あるいは知人の体験などを聞くと、「強引な売り方」が目立つ。一例を挙げると、パソコンを買いに来た女性客に対し、不要だと繰り返し伝えているのに延長保証サービスをしつこく勧め、拒否したにもかかわらず、レジで会計のときにちゃっかり乗せられていて文句を言った――というケースもある。私の母も携帯電話でノジマでしつこい接客を受け大揉めに揉めたことがあった。

もちろんノジマにも良い接客をする店舗や販売員がたくさんいる。先に挙げた事例は、極端な例にすぎないかもしれない。しかし、注意したいのは、自社販売員だからこそ、販売ノルマなどに強く縛られ「無理売り」をするケースもありえるということだ。先の事例では、パソコンは粗利が極端に低いため、利益確保につながる延長保証サービスをセットにするよう本部から強く指示されていた可能性がある。ヘルパーがいない分、店舗人員を自社でまかなわなければならず、個々の販売員に対し、高い利益率の実現を求めているのだろうか。もちろん、これは推測に過ぎない。しかし、現在の家電量販店は「ヘルパーがいない=親身な接客をしてくれる店」と限らないのは確かだ。

2011年に撮影したノジマ店舗の入り口。10年以上前から「お客様ニーズにお答えするためメーカー派遣はおりません」と訴求。しかし、「お答え」が不自然であるほか(本来は「お応え」)、「お客様ニーズに」という言葉も買物客へのメッセージと思えない、独りよがりな印象だ

業界の根深い悪弊

ノジマの2023年3月期売上高は、6261億円。金額だけ見れば、ケーズHD、エディオンに次ぎ、上新電機を上回る。しかし、家電販売額だけとなると2665億円で、家電販売事業の構成比は約43%にすぎない。一方で、経常利益ベースでの構成比は約57%となっており、家電事業の売上高経常利益率は7.7%。ちなみに利益率が高いと言われるケーズHDの売上高経常利益率は約4.8%。ノジマの数字はセグメント別売上高、利益額なので、単純比較はできないが、この高い利益率を実現するためにオリジナル商品に注力するのであれば、正しい商売を心掛けてほしいものだ。

プロパー製品においても、あるいは工事・配送業者に対しても、なにかトラブルを起こすと、罰金のようなかたちで要求することが流通ではみられる。相手の落ち度に対し見返りを要求するのもよくないが、「相手が悪いのだから当然」として勝手に支払代金から相殺するのは法律上問題があるだけでなく、企業のコンプライアンス意識、管理体制が疑われる。契約外業務を強制した上で一方的に契約解除をした、下請け業者に対し一方的に不利な契約を強要したなど、2005~2008年にかけて家電量販企業が下請け法違反で告発された事例はあるが、下請法違反に該当するような事例は2023年になった現在もまだまだ残っている可能性がある。業界慣習に基づく悪弊だけに、競合他社も自社の管理体制や契約内容を改めてしっかりチェックする必要があるだろう。

筆者としては、リベートやヘルパーは「不健全な商習慣」と考えであり、麻薬のようなものと考えている。しかし、長年培われてきた商習慣だけに、いきなりやめるのが難しいのも確かだ。多くの量販企業各社が「オリジナル商品」に注力しているが、「高い粗利率」を確保しつつ、従来の商習慣の「リベート」に順じたうまみも残せという「いいとこ取り」は、まさに麻薬の禁断症状のようなもの。「今までもそうだった」「他社もやっていること」といった言い訳がまかりとおり業界ではあるが、このままでは今後も同様の問題が発生するに違いない。

研究所長 川添 聡志

株式会社流通ビジネス研究所 所長 雑誌および書籍の編集者として出版業界に携わる。家電量販店向け業界誌『月刊IT&家電ビジネス』編集長を務めた後、家電量販企業に転職。営業企画やWebを含めた販促などを担当し、その後流通コンサルタントとして独立。ケーズデンキ創業者・加藤馨氏および経営を引き継いだ加藤修一氏の「創業精神」を後世に伝えるため、株式会社加藤馨経営研究所の設立に携わり研究所所長に就任。その後、ケーズデンキに限定せず、幅広く流通市場を調査研究するため、2022年1月からコンサルティング会社「株式会社流通ビジネス研究所」を設立し、同年4月より活動拠点を新会社に移行

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