※本記事は「株式会社加藤馨経営研究所」サイトにて執筆・公開した記事です。
連載『がんばらない経営を学ぶ』のページに、「がんばらない経営の基礎⑤ 品揃えの考えかた(後編)」を昨日アップしました。品揃えの考えかたについて、前回の「壁紙商品」に続き、専門店ならではのプライスゾーンの考えかた、さらには品揃えに付随する店舗の接客などについて、加藤修一氏に語っていただきました。
蛇足かも知れませんが、ここで本記事について少し研究所長の私から補足してみたいと思います。
松竹梅を意識する
まずはプライスゾーンについて。松竹梅の商品を並べると、竹の商品がよく売れます。これはドラッグストアがよく使う手法で、例えば栄養剤なら、「松=有効成分の多い大手製薬会社の高額な有名商品」「梅=有効成分が松よりも少ないが安い大手製薬会社の有名商品」と陳列したうえで、「竹=松に匹敵する有効成分を含む自社オリジナルブランド商品」を置くと、多くの人が竹の商品を選ぶ――というものです。オリジナルブランド商品は粗利も高いので、しっかり数量を売ることができれば、厳しい価格競争の中で、しっかり利益確保ができます。ここに挙げたのはあくまで分かりやすい例ですが、ドラッグストアはセルフ販売中心なので、竹商品をいかに際立たせ、魅力的に見せるか、手書きPOPや陳列場所など、インストアプロモーションに力を入れています。
家電の場合、消耗品や小物商品のようにセルフ販売の比率が高い商品もありますが、主力である家電製品は基本的に接客販売です。販売員の商品説明によりお客様は商品の良さを理解するので、接客販売ではセルフ販売よりも良い商品が売れます。しかし、販売員が忙しい、あるいはノルマに終れていると、高回転で接客することを求められます。「安い方が手間なく売れる」「短時間でクロージングできる」と、松竹梅を意識した接客ではなく、梅ばかり売る接客になります。これでは利益確保が難しくなってしまいます。
また、家電は高額商品が多いので、一番高い商品、一番良い商品を買うことをためらうお客様も少なくありません。このような場合、店内にある一番良いor一番高い商品が、市場における一番良い商品or高い商品よりも、あまりに低い商品だと、売れ筋商品の価格(=プライスポイント)が下がることになります。家電はセルフ販売商品ではなく接客商品ですが、やはり「松竹梅」を意識した品揃え、提案が大切なのです。
ABC分析が通用しにくい場面
加藤氏は記事中で、売場面積が最大150坪だった時代は粗利アップを重視したが、小さくても500~600坪の売場がある現在の店舗では、品揃えの考え方も違うと語っています。これについても少し補足しましょう。
あらゆる商品を品揃えできない狭い売場では、商品回転率はとても大切です。限られた面積を効率よく収益につなげるには、回転率の高い商品を優先的に置かなければなりません。しかし、多くの商品を展示できるだけの広さがある店舗では、小さい店舗ほど回転率は重要ではなくなります。
スポーツでたとえてみましょう。今年の春の高校野球には地方大会から4112校が出場しました。そのうち甲子園に出場できたのは32校です。この32校という枠を「売場面積」とすると、32校を選抜する必要があります。適当に32校を選んでも大会自体レベルの低い試合ばかりになって、観客(=お客様)は楽しめないでしょう。そこで、「強さ」=回転率・売れ行きを基準によいチームを選び、熱戦が繰り広げられるわけです。
では、出場枠が500校、いや思い切って4000校あるとしたらどうでしょうか。ほぼ全校が出場できるので、強さを基準に選抜してもあまり意味がありません。むしろ出場校の多さを生かし、多種多様な出場校の顔ぶれをいかに生かすかという発想が、大会を盛り上げるためには必要になるでしょう。つまり、大会の目的や性格自体、まったく別ものにしなければなりません。
品揃えにおいて商品を「選抜」する手法の代表が「ABC分析」です。「売上の8割を生み出すのは、2割の顧商品である」と表現されます(「パレートの法則」「ニッパチの原理」などとも呼ばれます)。例えば、下の表のように販売商品を売上構成比上位から並べ、構成比を上から加算していきます。
商品 | 売上構成比 | 累積売上構成比 | ランク |
商品A | 30% | 30% | Aランク商品 |
商品B | 20% | 50% | Aランク商品 |
商品C | 10% | 60% | Bランク商品 |
商品D | 8% | 68% | Bランク商品 |
商品E | 7% | 75% | Bランク商品 |
商品F | 5% | 80% | Bランク商品 |
商品G | 4% | 84% | Cランク商品 |
その他商品 | 6% | 100% | Cランク商品 |
売上の50%を占めるAとBの商品は主力商品である「Aランク商品」。売上の80%を占める商品のうちAランク以外の商品は「Bランク商品」で、いわば準主力商品です。それ以外の商品は売上への貢献が小さい「Cランク商品」と位置付けられます(ランクを分ける基準はあくまで一例です)。Aランク商品とBランク商品で、売上の80%が確保されているわけです。ABC分析は、店全体の売上で考えること事もできますし、商品カテゴリー内で考えることもできます。
売り場面積が限られる場合、店頭に並べる優先順位は売上構成比の高い順になります。そのうえで、売れ筋の変化などを見据え、Bランク商品の中から次のAランク商品を見つけ出したり、売上が伸びているCランク商品をBランク商品と入れ換えたりすることを検討します。これは甲子園における「選抜」と同じようなものです。Cランク商品に力を入れても売上への貢献は微々たるものなので、低い優先度の中で入れ替えたりカットしたりするわけです。
しかし、売場にほとんどの商品が置けるようになるとどうでしょうか。例えば1000坪クラスの大きな売場です。商品を絞り込む必要がないので、他店との差別化はCランク商品にかかってきます。アマゾンやヨドバシドットコムのような大規模なネット通販では、このCランク商品が「ロングテール商品」として顧客支持の大きな要因となっているのです。「他では買えない商品がある」「どこでも買えずに困っていたのに買えた」などの評価につながっています。このような評価は、趣味商品、あるいは消耗品で顕著に見られます。
とはいえ、少ない在庫で全国をカバーできるネット通販のような品揃えはリアル店舗では困難です。そこで、リアル店舗において重要になるのが消耗品なのです。消耗品は型番が違うと代替えできない場合が多いので、「この店舗にあって助かった」と強くお客様の心に刻まれます。代表されるのがボタン電池や特殊蛍光管、空調家電のフィルターなどです。加藤氏が考え出した、消耗品を重視した品揃えは、リアル店舗で実現できるロングテール対応と見ることもできるでしょう。
Cランク商品は決して商品回転率は高くありません。年に1回転、あるいは0.5回転かもしれません。交差比率(=粗利率×在庫回転率)でも利益貢献度の低い、カットすべき商品と見なされることが少なくありません。しかし、数値に現れる利益は少なくても、顧客満足度やお客様に店舗を選んでいただける確率は高まります。つまり、販促効果や売り場における取り寄せ作業の手間を省く効果など、直接数値で表現されないメリットがあるのです。これらの数値化できないメリットを明確にするために、加藤氏は「壁紙商品」と意味づけしました。
Cランク商品のような効率が悪い商品を品揃えするためには、置いても困らないだけの広い売場、そして効率が悪い商品が多少あっても収支上問題がないだけの収益力が必要になります。つまり「余裕」です。この余裕がないと、効率の悪い消耗品などはカットされ、さらには消耗品以外のCランク商品もカットされていきます。結果、当たり障りのない売れ筋商品だけの店となり、お客様からみて「つまらない」「役に立たない」店舗に成り果てます。
ものごとを掘り下げて考える
回転率を上げ、売上効率を上げるというのは、一見正しいことのように見えます。しかし、加藤氏が指摘するように「商品を置ききれない小さな店舗」と「ほとんどの商品を置ける大きな店舗」でCランク商品の位置づけは変わるのです。数が売れない高額商品も、売れないからと安易にカットすると、その商品カテゴリーの平均単価が下がってしまうことがあります。
このように、一見「正しい」「得をする」ように見えることも、しっかり掘り下げ、自分たちの商売において何が正しいのかを常に考えることが大切と加藤氏は語っており、これが「がんばらない経営」の土台となっているのではないでしょうか。
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