新型コロナの家電業界への影響

家電量販店の売場

※本記事は「株式会社加藤馨経営研究所」サイトにて執筆・公開した記事です。

現在、研究所では他のプロジェクトで忙しく更新が滞っています。加藤修一氏へのインタビューは、しばらく不定期になります。インタビュー記事を掲載した際にはここで報告しますのでよろしくお願いします。

さて、今回の記事は、販売店向けの内容ではありません。コロナ禍が家電量販業界にどのような影響を与えたのか、量販各社の決算から市場動向を読み解いてみたいと思います。なお、加藤修一氏の見解ではなく、あくまで筆者の一個人としての見解である点にご留意ください。長い文章となりますが、途中で分けるとわかりにくくなるので一気に記述します。

コロナ禍に揺れた2020年

さて、新型コロナウィルスによる行動自粛要請が続いています。緊急事態宣言解除後も、変異株が感染拡大を見せるなど、まだまだ収まる兆しが見えません。飲食店を中心にサービス業への影響も長引いています。また、再度の緊急事態宣言では、東京都をはじめとする対象エリアにおける営業自粛要請対象に家電量販店も含まれています。売り場面積1000㎡以上ということは、郊外型店舗を含む全店が対象ですから、今後まだまだ大きな影響が出てきそうです。

昨年は、旅行などの外出ができずレジャーへの出費が抑えられ、一方で政府による特別定額給付金が支給されたこともあり、「イエナカ」消費として家電が好調な販売実績となりました。人流が大幅に減少した駅前立地の大型量販店舗は厳しかったものの、郊外では大型家電を中心に、パソコンやネットワーク関連機器などの「テレワーク」需要も好調。ちょっとした特需となりました。自粛要請に伴い、営業時間は短縮していたので、想定外の特需だったと言えるでしょう。

2021年に入って1~3月は、忙しかった2020年10~12月に比べて、客足も若干落ち着いた印象です。また、4月についても「新生活」需要がここ最近は落ち着いている傾向で、今年も盛り上がりに欠けているようです。コロナの影響で転居等も落ち着いている面があるかもしれません。

さて、家電量販企業の2021年3月期決算発表を控えている微妙なタイミングですが、コロナ禍の2020年を振り返るとともに、今後の家電量販業界の動向について触れてみたいと思います。

ビックカメラの中間決算

参考になるのが8月決算で、今月中間決算を発表したビックカメラです。2021年8月期(2020年9月1日~2021年2月28日)の連結決算は、売上高が前年同期比-3.5%(前同期は-1.2%)、営業利益は同33.8%増(前同期は-39.4%)、経常利益は同33.2%増(前同期は-34.7%)、最終利益は同17.0%増(前同期は-41.6%)となりました。売上高は2期連続減、利益は今期回復したものの、前期の落ち込みをカバーするには至らなかったという結果です。

個別で売上高を見ると、ビックカメラ単体では前年同期比-9.6%(前同期は-2.7%)で、コジマ単体では11.0%増(前同期は3.2%増)。都市型と郊外型で大きく差が出ています。報道されているように、多くのビジネスマンや学生が行きかう駅前立地は外出自粛の影響を大きく受けます。ビックカメラでは、テレワーク関連を含むパソコン周辺機器、エアコンや空気清浄機を含む季節家電などが大きく伸長しています。一方で、大きくダウンしたのが以下の商品です。

  • 調理家電      8,110百万円(前同期比 78.1%) 前年同期10,383百万円(前同期比95.2%)
    参考:コジマ9,690百万円(前同期比114.7%) 前年同期8,446百万円(前同期比102.7%)
  • 理美容家電    11,935百万円(前同期比80.3%) 前年同期16,636百万円(前同期比96.6%)
    参考:コジマ 6,365百万円(前同期比110.5%) 前年同期7,230百万円(前同期比107.9%)
    ※2021年8月期より空気清浄機を「理美容家電」から「季節家電」に変更。前同期比は変更を踏まえた数字
  • 時計       5,405百万円(前同期比53.2%) 前年同期10,157百万円(前同期比84.9%)
  • 医薬品・日用雑貨 3,639百万円(前同期比42.6%) 前年同期8,534百万円(前同期比89.9%)

「理美容家電」の区分変更がありましたが、上記商品だけでもビックカメラ単体でざっと160億円の売り上げダウンです。参考として一部併記したコジマは、「調理家電」「理美容家電」ともに前年同期比2ケタ増と好調です。さらには、「時計」「医薬品・日用雑貨」も大きく落ち込んでおり、いずれもインバウンド需要の対象商品です。ビックカメラの決算説明ではインバウンド需要の落ち込みを207億円としています。ちなみに前期は2020年2月以降、大きくインバウンドの売上・客数が落ち込んでおり、特に2020年3月はともに90%近く減少しました。決算説明で「来期以降の回復に期待」としていましたが、コロナ禍の長期化は想定外の事態だったと言えるでしょう。

ビックカメラでは、ECの売上が145億円増加したとしていますが、実店舗の売上は、インバウンド減少分207億円を含む401億円のダウン。結果、ビックカメラ単体として240億円の売上減となったと説明しています。テレワークなど法人需要の高まりもありますが、法人事業の売上増は16億円。結局は、勤務時間や通勤帰りなどに店頭で購入されるオフィス関連需要のウェートが大きく、人流の大幅な減少がインバウンドを除く200億円弱の売上減の最大要因です。

もともとカメラ量販は、乗降客数の多い駅の前に大型店をつくるビジネスモデルです。その強みは、平日の通勤通学の立ち寄りが見込めることです。平日はオフィスの需要や通勤通学の客の立ち寄り、そして土日は買物目的で都内に出てくる客を獲得。これにより高い地代家賃に見合う収益につなげています。平日の売上が大きいことが、郊外店との大きな違いですが、今回のコロナ禍のように平日の人流が減少すると、高コスト高収益で回すビジネスモデルの歯車が狂ってしまうのです。

郊外量販はどうか

ビッグカメラグループに属する郊外型量販のコジマは好調です。売上高は前年同期比11.0%増、大型商品の販売好調もあり、売上総利益は17.2%増、営業利益は204.3%増、経常利益は189.5%増と大きく数字が改善しています。ただし、売上高営業利益率、売上高経常利益率はともに3.5%にとどまり、まだまだ競合に見劣りします。とはいえ、ビックカメラの子会社になる前の経営状態から考えれば、業績も財務も大幅に改善しています。着実に改革を進めてきた結果、今回のコロナ禍が追い風になったことは間違いないでしょう。2021年8月期中間では、白物家電や季節家電をまとめた「家庭電化商品」の売上比較では、ビックカメラ単体を上回りました。

続いて、2021年3月期の他の郊外量販企業も見てみましょう。第3四半期時点では以下の通りです。

企業名売上高前同比営業利益前同比売上高営業利益率
ヤマダHD1,283,093百万円5.3%増74,406百万円105.0%増5.79%
ケーズHD606,537百万円10.8%増45,526百万円74.3%増7.50%
エディオン581,289百万円2.3%増23,026百万円128.4%増3.96%
ノジマ378,470百万円-4.1%24,469百万円40.4%増6.46%
上新電機340,823百万円7.7%増12,521百万円72.8%増3.67%
2021年3月期第3四半期実績(下線は前年実績における前年同期比がマイナスの場合を表す)

ヤマダに限らず、リフォームや金融など、家電販売以外の事業を展開している企業も多く、かつてのように単純に営業利益率で比較することが難しくなっています。ゲームや玩具、スポーツ用品などを扱わず、家電に特化しているのはケーズHDのみです。その意味では、ケーズHDの実績は家電市場の動向を見る上でのベンチマークとなる存在と言えるでしょう。

さて、上表を見ての通り、各社売上高は好調です。これには十数年前に発生した、デジタル放送移行及びエコポイントによる特需からの買い替え需要が反映されているものと思われます。利益率の面でも、特需反動で大型商品が売れたことが貢献しています。

ヤマダの静けさ

加えて、プライスリーダーであるヤマダが、ここ数年極端な価格攻勢を行っていないことも家電量販各社の利益率向上に影響しているでしょう。現在、ヤマダは住宅やリフォーム、生活雑貨など新規ビジネスに注力しており、新規ビジネスを軌道に乗せることに注力しています。これに対し、現在の国内家電市場は将来的に大きな成長が見込めません。すでにトップシェアを獲得しているヤマダが、熾烈な競争を仕掛けて競合からシェアを奪っても、収益のさらなる向上は見込みにくく、むしろ体力勝負で消耗する可能性があります。それよりも、家電事業で確実に収益を確保した上で、新規ビジネスに投資し、成長させる方向に舵を切っている――筆者はそのように見ています。実際、コロナ禍での折り込みチラシを見ても、以前のような挑戦的な紙面作りは減っています。また、メーカーとの関係も以前に比べ良好になっているという話も多く耳にします。

こういった背景を考えると、競合企業が「ヤマダがおとなしいと収益が拡大する」「新規事業に手を出して伸び悩んでいる」などと安易に喜ぶのは早計と感じます。新規ビジネスの収益貢献が大きくなれば、家電事業において本気で価格攻勢をかけることも十分ありえるでしょう。いつ本気で競合をふるい落とし、家電市場の寡占化を狙うのか、その時期はわかりませんが、競合各社にとっては「不気味な静けさ」と言えるのではないでしょうか。また、トップ企業とメーカーとの関係が良くなれば、「優越的地位の濫用」といったコンプライアンス問題もトップ企業より、2番手3番手企業に目が行きがちとなります。この点も今後注視していく必要があります。

好況は不振企業への追い風

コロナ禍が家電業界にとって追い風になったことは確かです。このように市場が好調な時は、不振企業や伸び悩んでいる企業が一番恩恵を受けるかたちになります。

通常時は、お客様が使い慣れている店、信頼している店が買い物時に選ばれます。しかし、需要が高まって欠品や接客漏れが発生するようになると、普段は買物をしない店に足を運びます。言い方は良くありませんが「おこぼれ」にあずかることができるようになるのです。そのため、企業としての実力(本来の販売力)以上の実績となります。

再編機運が先延ばしになることも少なくありません。例えば家電エコポイントが実施されたのは2009年~2011年。コジマがビックカメラ傘下に入り、ベスト電器がヤマダ電機の子会社になったのは2012年でした。特需により延命したものの立て直しには至らず、特需効果が切れたとたんに他社による救済が必要になりました。

特需下で顧客を固定客にできれば理想的ですが、家電は基本的に購入サイクルが長い商品です。特に特需で動くような大型家電は買い替えサイクルが約10年。いくら特需下で買物した顧客が良い印象を抱いても、次に来店し買物するまでにはかなりの時間がかかります。そのため、不振企業、競争力の低い企業では特需の効果が長続きせず、特需後の反動が大きく出やすいのです。

業績を評価するうえで重要なのは、特需下での実績が、もとからの強さが発揮されたものか、それとも「おこぼれ」にあずかったのかを見極めることと言えるでしょう。

2022年3月期の注目点

2021年3月期は、家電量販各社が好業績を確保するでしょう。では、2022年3月期の家電量販各社の決算の注目すべきポイントはどうなるでしょうか。以下にざっとまとめてみます。

①2021年3月期の実績に対する反動の大きさ

家電エコポイント特需で購入した大型家電が買い替え時期を迎えており、基本となる家電需要はまだまだ堅調です。コロナ禍での家電需要の高まりは、買い替え需要をまだまだ解消しきれていません。しかし、コロナ禍の経済環境もあるので、買い替えが集中することはなく、数年にわたって分散する可能性があります。つまり、上で記述したような「おこぼれ」の買物は見込みにくくなります。2021年3月期の好業績に対し、2022年3月期の実績が大きく落ち込むようであれば、それは土台となる「強み」がないことを意味します。

②販管費の動向

コロナ禍での政府の要請もあり、現在も家電量販店では営業時間短縮を継続している店舗が目立ちます。また、極度の集客を避けるため、チラシ販促も抑制しています(判形の縮小、セール訴求の自粛)。単純に販管費が抑えられて、利益が拡大したとというだけではありません。従来郊外型量販が売上確保のために必要としていた、長時間営業、折り込みチラシという武器が、実はそれほど大きな意味を持たないことが明らかになったのです。

3月24日版の日経新聞で、上新電機が「新型コロナウイルス禍で余儀なくされた営業形態を感染収束後も継続する。20年ぶりに実施した元日休業も続けるほか、引き続き閉店時間の前倒しも検討する。混雑回避を狙ったセール品の抽選販売も実施する」と報じられました。時短営業をしても売上に大きな影響がなかったのです。従来、競合よりも短い営業時間では負けてしまうと、無理に競合に合わせていた傾向がありました。ある意味「我慢比べ」です。営業時間を短縮できれば、その分の人件費や光熱費の圧縮にもなり、人員シフトをもっと効率よく回せます。

チラシも郊外量販店にとって、かつては最大の情報発信手段でした。しかし、YKK戦争の頃と異なり、家電は安ければ買う、価格で衝動買いするという商品でもありません。必要な時、欲しいと思ったときにはじめて購入につながります。チラシは買いたいときに自店の存在をアピールする手段に過ぎなくなっています。そもそも、各社の折り込みチラシを並べて価格比較して見に行く店舗を決めるという人は現在では少ないでしょう。新聞購読自体が大幅に減っており、現在ではネットで価格を調べることもできます。そもそも、多くの商品は販売員に価格交渉をして買っており、チラシに掲載している価格自体の信頼性が低いのです。不毛な販促努力が見直され、より消費者に伝わる、実効性のある販促へとシフトするチャンスと言えます。

このように従来当たり前となって居た、家電量販店の営業スタイルが大きく変わる可能性があります。各社がコロナ後の消費環境を見据えてどのような販管費構造にしていくのか大いに注目されます。

③将来を見据えた投資

従来型ビジネスモデルが通用しにくくなる中、どのように成長戦略、競争戦略を描くのか。コロナ禍における恵まれた環境をいかし、将来に向けてどのように投資するかも重要なポイントです。

多くの企業がこれまでもネット通販の拡大に注力してきました。家電市場では、量販チャネルがシェアの6割以上を持っています。メーカーと量販企業の結びつきが強く、リベートやヘルパー派遣など独特の商習慣があり、GMSやディスカウントストアも容易に攻略できません。また、接客販売が中心という点も、家電を他の流通が扱いにくい理由です。これはネット通販企業にとっても同様であり、家電市場における収益源である大物家電は、アマゾンや楽天、ヤフー!なども家電量販店の出店に頼っているのが現状です。

家電量販各社は、当初どちらかというとネット販売強化のために、売るためのシステム開発に注力していました。しかし、最近は在庫管理システムや物流センターの開設などのインフラ整備を急速に進めています。特にここ数年急速に進んだのが、「電子棚札」の導入です。導入が早かったノジマや上新電機に対し、その後エディオンやヤマダ電機、ビックカメラも導入しました。全商品ではなく特定の商品分野に限定して、あるいは一部の店舗から実験的に導入するなど、展開方法は各社さまざまですが、今後電子棚札の導入は今後さらに進んでいくでしょう。

電子棚札のメリットについては長くなるので改めて別途解説しますが、このような将来を見越した投資も注目すべきポイントです。会社として、どのように店舗を運営し、あるいはネット販売を強化し、さらにはどのような従業員の働き方を目指すのかが見えてきます。会社としてのビジョンが明確でないと、場当たり的な施策が多くなります。

電子棚札も1個1500円(価格はサイズや表示色数で変わるのであくまで目安)として、標準的な郊外店なら2~3万アイテムの商品がありますから、1店舗あたり3000~4500万円。500店舗あれば150億~200億円くらいの費用が掛かります。さらにはプライス管理、在庫管理などを反映するシステムの導入も必要です。アイテム数や店舗数が多くなればもっと費用が掛かります。徐々に導入していくにしても、小物商品から導入するか、大物商品から導入するか、このあたりも企業により考え方が異なります。

他にも、ネット通販強化に対し、リアル店舗の展開をどう考えるのか。また、新規出店で収益を伸ばすことが難しくなっている中、既存店の強化や運営の見直しが今後は重要になります。このあたりをアフターコロナを見据えてどのような強化策を量販企業各社が組んでいくのか注目が必要です。

各社決算発表に期待すること

最後に、コロナ禍が収まるまで数年かかったとしても、あくまで短期的な問題です。国内市場は、少子高齢化や人口減少、地方過疎化などのさまざな課題を抱えています。中長期的にリアル店舗の価値をどのように考え、さらには企業の社会的における存在意義を高めていくのか。さらには国内市場でどのように成長戦略、あるいは生き残り戦略を考えていくのか。2021年3月期決算では、コロナの影響云々だけでなく、そのあたりの方向性が各社から示されることに期待します。

研究所長 川添 聡志

株式会社流通ビジネス研究所 所長 雑誌および書籍の編集者として出版業界に携わる。家電量販店向け業界誌『月刊IT&家電ビジネス』編集長を務めた後、家電量販企業に転職。営業企画やWebを含めた販促などを担当し、その後流通コンサルタントとして独立。ケーズデンキ創業者・加藤馨氏および経営を引き継いだ加藤修一氏の「創業精神」を後世に伝えるため、株式会社加藤馨経営研究所の設立に携わり研究所所長に就任。その後、ケーズデンキに限定せず、幅広く流通市場を調査研究するため、2022年1月からコンサルティング会社「株式会社流通ビジネス研究所」を設立し、同年4月より活動拠点を新会社に移行

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