※本記事は「株式会社加藤馨経営研究所」サイトにて執筆・公開した記事です。
記事へのコメント投稿で、以下のようなご質問をいただきました。
家電販売の場合、販売後の配送・据え付け工事・アフターサービス等は必須条件と思われますが、企業により対応策は異なっています。そこでケーズデンキが自前で行わない理由は何故か、コストを含め事故リスクをヘッジするのに必要な施策なのか、又は他にどのような理由があるのか経営方針が未だに理解できていないのです、ぜひ理解・納得させて下さい。宜しくお願いします
ケーズHDの経営方針は、ケーズHDが回答すべき内容です。当研究所は創業家の歴史や思想を研究する機関ですが、ケーズHDからは独立した立場です。当研究所が現在のケーズHDの経営方針や内情を把握しているわけではなく、説明できるものではありません。また、加藤修一氏も経営を退かれたとはいえ、名誉会長という立場ですから、ご質問に対する意見の表明は経営への関与になりかねないというリスクがあります。その点ご理解ください。
とはいえ、筆者は業界誌記者として長年家電量販業界を取材してきました。現在も、個人として流通コンサルタント活動もしています。修理サービスは、スポットコンサルなどでもよく質問されるテーマの1つですので、あくまで個人的な見解として、業界の一般論として、家電量販業界のサービスおよび配送設置の外注化について説明してみたいと思います。内容的に丁寧に説明すると長くなりますので、その点ご了承ください。
個人店~混売店時代のサービス
かつて、戦後復興の中で家電店が多く営まれていた時代、個人店は、店主(あるいは数人の社員)がほぼすべての業務をこなしていました。販売、取り付け、修理の相談まで、家電にまつわる一連の業務を、お客様とワン・トゥ・ワンの関係で担っていました。
その後、個人店がメーカー系列店になり、その中で混売店になる店が出てきます。混売店になると価格訴求も強まり、売上も飛躍的に伸びます。もちろん数人では業務を回せなくなるので、社員を多く雇い、分業体制を取るようになります。販売担当、配送担当、修理担当、さらには、商品の仕入れ担当から、総務担当、経理担当など。当時は「部」「課」ではなく、「係」という肩書が主流でした。時代も高度成長期や様々な家電ブームを迎えており、家電はまさに「生活の向上の象徴」。分業体制の導入は、その後のマス・マーチャンダイジングを実現する大きな力となりました。
昔の家電は、現在と異なり、故障も多く発生しました。また細かい調整などが必要な場合も少なくありませんでした。しかし、販売する人が故障の確認や修理を行っていては販売効率が下ります。販売担当と修理担当が分業することで、各担当が専門知識を高められ、仕事の能率を上げることができました。
たとえば昔のダイイチ(後のデオデオ、現:エディオン )は、「効用の提供」で差別化していました。効用の提供とは、「単にお客様に機器を提供するだけでなく、その機器の持つ効用を提供するのだという考え方」であり、「テレビなら画像がよく映る、洗濯機ならよく洗えるという効用を買っていただくのだということ」であり、「お買い上げいただいた品物が傷んでしまえば、その品物の価値はゼロになり、効用を提供したことにはなりませんから、一刻もはやく直して効用を復活させなければなりません」という考え方で、ダイイチの経営綱領にも盛り込まれました。修理部門は「親切」「サービス」を実現し、顧客との関係を強めるとともに、その後の購入につながる、つまり「顧客拡大」「売上伸長」に直結していたのです。
量販店の時代へ
やがて、混売店が業容を拡大し、多店舗展開を始めます。当初は地場を中心にチェーン展開し、「量販業態」が本格化していきます。その後、各量販店がエリアを飛び出し、ドミナントの奪い合いが始まります。こうなると、もはや戦争状態。北関東YKK戦争ではありませんが、「1円セール」「5円セール」に象徴される徹底した価格訴求が量販店の「集客力」「販売力」と等価とみなされるようになります。実際、ケーズHDも、この北関東YKK戦争に巻き込まれ、対抗したことで、その名を広く知られたという面があります。
量販とは、大量販売。低価格で大量販売(薄利多売)することで、利益を最大化する手法です。低価格を武器とすることで、商圏を拡大し、多店舗展開により市場占有率が高まります。市場における優位性が高まれば、さまざまな特典を得られるようになります(仕入れ価格の優遇、在庫確保、リベート、人的支援など)。
限られた商圏内で顧客満足度を高め、商圏シェアを高める、ある程度高まったら維持することよりも、価格を武器に限りない商圏に挑むことが家電流通の主流となります。量販店チャネルが家電市場で6割以上のシェアを占め続けているのは、ビジネスモデルに優位性があるからです。
低価格を武器にするからには、仕入れ面での優遇だけでなく、コストダウンも必要になります。多店舗展開によるコストダウンでは、チラシの大量配布(1店舗あたりのコスト率が下がる)、少ない人員で広い売り場を回す統一オペレーション、本部機能の集約などがあります。
顧客との関係も、従来の地域店や混売店における「ワン・トゥ・ワン(一対一)」から。「ワン・トゥ・マス(一対多)」に変化します。正しいかどうかではありません。量販業態を消費者が圧倒的に支持したのです。実際、多くの個人店、さらには規模の小さい混売店も、量販店が台頭する中、市場からの退場を余儀なくされました。ちなみに、私が取材していた当時の個人店では、「物販で粗利20%弱、サービス料金を加えて粗利25%」と話していました。現在では物販で粗利を20%維持することも難しいかもしれません。だからこそ、価格帯が低く、粗利も少ない小物商品を個人店で品揃えすることが難しく、エアコンや冷蔵庫、洗濯機、テレビといった大物商品に販売を頼らざるを得なく、それも厳しくなるとリフォームや太陽光発電といったより大掛かりな工事案件にシフトせざるを得なくなったのです(もちろん、商圏特性や店舗としての特徴作りで小物商品にも強みを発揮している個人店も一部にあります)。
量販企業におけるサービス部門の縮小
量販企業各社は、ドミナントを飛び出し、店舗数、出店エリアを急速に拡大していき、「出店ラッシュ」となります。店舗数が増えれば先に述べたようなコストダウン効果が得られる一方で、地代家賃、人件費などのコストは飛躍的に高まります。いかに「効率良く」運営するかが求められます。市場が好調な時はコスト高でも問題ないでしょう。しかし、不況になるとコスト高の企業は一気に淘汰されます。実際、1991年からのバブル崩壊、2002年のITバブル崩壊(パソコン不況)、2008年のリーマンショック。家電市場が不況に追い込まれると、体力のない企業が一気に淘汰され、業界再編が進みました。
このような中で多くの企業がサービス部門を縮小していきます。配送は外部委託に、修理部門は廃止もしくは縮小になります。西日本の企業には今も自社修理部門を設けている会社もありますが、それでも規模はかなり縮小しています。
どうしてサービス部門を縮小したのか、一つには「売り」に直結しないコストセンターであるためです。先に述べたように、かつては「サービス」は顧客の囲い込み、商圏内のシェアを高める手段として重要でした。売り上げに直結していたのです。加えて、家電は高額であり、同時に不具合も多く、テレビや冷蔵庫なども調整や修理の発生頻度が高かったのです。高い家電を長く安心して使うためにはダイイチの「効用の提供」のようなサービスが大きな武器となったのです。
しかし、現在では主要な家電は代を重ね、故障の発生頻度も昔に比べればはるかに少なくなっています。また、マイクロチップが導入され、機械的な修理での対応では解決できないケースも多くなりました。液晶テレビなどはパネルと基盤が一体化しており、修理時には中身の総取り換えになります。また、ドラム洗濯機なども、メーカー修理担当者でさえ「自社商品を分解したら組み立てる自信がない」と話すほどに、中身が複雑かつ詰め込まれています。
一方で、薄利多売の商売の中で顧客満足度の向上を図るために、サービスの無料化が進みました。昔に比べ、商品単価も下がっており、購入価格に対し修理代金が割高に感じるケースも増えています。その結果、修理部門がよりコスト高な存在になったのです。
このような中で修理サービスはメーカー修理が中心となり、海外メーカーでは商品交換などで対応するケースが多くなっています。また、修理がコストセンターなのはメーカーも事情は同様。メーカーも修理サービス拠点を縮小しました。
加えて、修理とはいっても、メーカーの認定なく修理することも困難です。勝手な修理を行い、その結果不具合で火災などの事故が発生した場合、流通が責任を問われます。
もはや流通が自社内に修理専門部隊を持てる環境ではなくなっていると言っていいでしょう。
余談ですが、自社修理を行っている量販企業では、会社のウリとして修理対応を掲げていましたが、やはりコスト高なことが問題となり、あるとき訪問修理を行う担当者にも「販売成績」(ノルマに近い目標売上)を課したことがありました。少しでも採算性を改善する狙いだったようですが、修理や点検に来た担当者が商品の提案をし売ろうとすることで、お客様の評判もよくなく、また担当者の心理的負担も大きくなりました。結果、しばらくして中止したようです。
配送の外注化
配送については、修理と多少事情が異なります。大型商品は配送設置が欠かせず、エアコンでは電気工事も伴います。しかし、家電はスーパーやドラッグストア、雑貨店、家具店に比べても季節変動要因が大きい商売です。新生活商戦、夏商戦、年末商戦と大型家電が売れるタイミングはある程度決まっています。特に夏商戦はその年の気候環境によって売り上げが大きく左右されます。
かつての個人店のように、自分で売って、軽トラで配送する商売とは異なり、量販店では、商戦期に集中的に大量の配送に対応しなければなりません。しかし、商戦期に対応できる人員数を確保すると、商戦期以外は量販企業にとって非常に大きなコスト負担になります。例えば店舗の売場人員を、最大商戦期に合わせたら店舗の採算性は著しく悪化するでしょう。物販に比べて、売上金額の小さい配送設置ではさらに採算性は悪化します。
その結果、家電の商戦期以外には、宅配やルート配送、家具の配送など、家電以外の配送業務を行える外部配送業者と、シーズンごとに契約し外注したほうが、メリットが大きいのです。また、もともと個人店だったエアコン工事業者もいますが、短期に集中的に仕事が見込めることで、単独で販売から配送設置工事までやるよりも数をこなせ、収入が大きくなります。在庫管理や営業の手間を省けることも大きいでしょう。つまり、量販店と配送工事業者双方にとってメリットがあるのです(安い価格で工事をさせるような量販はサービス品質が低下します)。
量販店が、日本を代表する流通チャネルにまで規模を成長させたことで、修理や配送はもはや自前よりも外注のほうがメリットが大きくなったのです。
今後サービスに求められること
長々と説明してきましたが、家電量販店は多店舗展開により巨大化し、より多くの顧客を相手にする量販ビジネスとなったことで、修理や配送といったサービスを、自分でやる→社員の分業→外注と変化させなければならなかったのです。
では、現在の形が「ベスト」なのかというと筆者はそうは思いません。物販ということでは、ネット通販も浸透しています。配送設置工事の業者さえ確保できれば、ジャパネットたかたのようなテレビ通販だけでなく、Amazonなどの大手ネット通販も大型家電販売が可能になるでしょう。
かつては特別だった「量販」という業態も、すでに当たり前の買物の場になっています。また、少子高齢化が進む中、もう一歩踏み込んだ「サービス」を望むお客様も増えてくるかもしれません。すでに「量販におけるサービス」を再定義すべき時代に突入していると筆者は考えています。
例えば修理。量販企業が自社で修理できないからといって、ただ修理依頼を受けてメーカーに修理依頼し、修理代金を請求するだけでは「親切」とは言えないでしょう。店頭ではよく「買い替えた方がお得」という訴求も見かけますが、修理代金が高いからといって、ハナから修理を切り捨てようとすることは、売り手の身勝手な発想だと感じます。まずは、お客様の要望をお聞きし、不具合の状況を確認して、その上で修理を見積りお客様の判断を仰ぐくらいの「一時対応」はあるべきではないでしょうか。その一時対応のノウハウをマニュアル化できれば、販売スタッフなども兼務が可能になると思います。
「量販」とはいえ、買物されるお客様の満足度は、単に「性能・機能」と「価格」を秤にかけるだけで決まるものではありません。そこに「納得」が必要です。量販店という場が、単に価格交渉で安くしてくれる場というだけなら、ネットの価格比較サイトなどを提示すれば済む話です。しかし、それでは販売員のスキルや専門性は発揮されません。ダイイチの「効用の提供」は、修理に求められる中身こそ変われど、その根底の考え方はいまも大切だと思います。ここで買えば安心できる、信頼できる――そのような価値を「量販」という業態の中でしっかり定着させなければ、専門店としての強みを発揮できなくなり、やがては家電市場における寡占化も崩れてしまいかねません。
また、配送業者についても、すでに何年も前から量販各社が委託業者の確保に苦心しています。かつては販売から撤退した個人店が多くありましたが、個人店も高齢化が進み、電気工事士資格を有する配送業者自体が減少しています。新たに配送業者を目指す若い人も非常に少なく、将来的にも増加は見込めず、むしろ今後も減少しつづけると予想されます。質の低い業者、不祥事を起こした業者は切る――そんな選択も、切り替える業者がいなければ、単に外注先が減って、対応できる配送設置工事の枠が狭まるだけになりかねません。
収益の大半を大型商品に依存している量販店が、その支えとなる協力業者を確保できなくなれば、将来的な業績にも影響してきます。協力業者を単に「手軽」で「便利」で「コスト抑制」できる外部委託先として見るのではなく、協力業者が雇用を拡大し、ビジネスを発展できるように支援していくことが重要なのではないでしょうか。
例えば、報酬が少なければ、少しでも利益を確保しようと手抜きしたり、ミスをしてもごまかしたり、あるいはお客様宅で窃盗を働いてしまうなどモラルが低下します。実際、協力店への支払が渋いと言われる量販企業では、配送設置工事に関する悪評がネットでも目立ちます。
配送業者としてのビジネスを拡大し、雇用者の収入を上げ、さらには自分の仕事の満足度を高め、誇りを持って仕事が出来る環境を作ることが大切です。これは配送業者単独では難しい面もあり、発注元である量販が、積極的に支援することが大切です。量販各社も現在、質の高い協力業者には、夏商戦に向けて最低発注金額の保証や遠方手当などを支給していますが、もっと踏み込んで配送業者のビジネス拡大をサポートして良いのではないかと筆者は思います。配送業者における次世代の育成は、決して他人事ではなく、その育成にもっと支援が必要ではないでしょうか。
すでに日本も成熟社会となり、持続的な成長が見込めない時代になっています。そのような中で、自社さえよければよし、という考え方は通用しません。日本ではインフラの老朽化が問題視されていますが(高度成長期に作った道路や橋、水道管などの老朽化。地方公共団体に予算がなく修理できない状況も生まれている)、家電量販店にとって、修理や配送はまさにインフラなのです。
「自社さえよければよい」といっても、その「よい」とは、お客様が買物されて売り上げがたってはじめて得られるものです。販売に支障が生じれば「自社さえよければ」とも言えなくなります。自前でサービスできれば理想ですが、現実的とはいえません。それなりの売り上げ規模と利益金額を確保している量販店は、協力店に「情けは人のためならず」「損して得取れ」というスタンスで信頼を強め、将来に向けた積極的な取り組みを図っていくことで、量販とサービス品質を両立できるようになるのではないでしょうか。
あくまで個人的な考えであり、どこまで質問内容に答えられているかわかりせんが、私も店頭で接客していた際に修理受付や配送の大切さを強く感じてきました。質問する気持ちは痛いほどわかります。一方で、家電流通の歴史、企業としての経営などを見てきた中で、自前化には素直に賛成できない面もあります。正解はないかもしれませんが、業界の発展、健全化につながる新たな動きが出ることに期待しています。
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