エアコン頼みの行き先は

エアコン売場の画像

以前「家電で苦戦するヤマダ」で書いたように、生活必需品である主要大型家電の年間需要台数は以下の式で求められる。
 国内世帯数×一世帯当たり保有台数÷買い替え年数=年間需要台数

2022年1月時点の日本の世帯数は、約5976万世帯(外国人世帯含む)。内閣府「消費動向調査」2022年3月調査結果によると、冷蔵庫の平均使用年数は12.8年。5976万世帯÷12.8年=約467万台が年間需要となる。GfK Japan発表の家電・IT市場動向のリリースによると、冷蔵庫の年間販売台数は2020年460万台、2021年450万台と、ほぼ合致する。GfK Japanの発表値は、工業会の出荷統計と異なり、主要家電量販店のPOSベースでの販売実績に基づいており信頼性が高い。

「消費動向調査」の「主要耐久消費財等の普及・保有状況」に冷蔵庫や洗濯機などは含まれていないが、計算結果と実績がほぼ合致するということは世帯当たりの保有台数がほぼ1台ということでもある。当然と言えば当然だが、例えば一世帯に複数台設置するエアコンは年間需要が引き上げられる。同調査によると平均使用年数は13.7年、平均保有台数は2.45台。5976万世帯×2.45台÷13.7年=約1068万台。これが需要ベースとなるが、GfK Japanの先の発表では、800~900万台となっている。普及がまだまだ進んでいないエリアも多く、このあたりは普及しきっている冷蔵庫や洗濯機とは事情が異なる。

日本の人口は減少し続けている。総務省統計局「人口推計」によると2021年10月時点での人口は、1億2550万2000人。2010年をピークに、2011年以降11年連続での減少で、2021年はは64万4000人減と1950年以降最大の減少幅となった。一方で、世帯数は総務省自治行政局「住民基本台帳人口要覧」によると2022年1月現在5976万1065世帯。現行調査開始(1968年)以降、毎年増加している。人口は減少しているが、世帯当たりの構成人員数が減少しているためだ。

家電の需要は、人口よりも世帯数に左右される。食品や衣料品は、一人ひとりの頭数に左右されるが、住宅設備である家電は、一軒ごとの購入が多い。日本は人口減少+少子高齢化を迎えたが、家電需要が比較的底堅い要因のひとつである。とはいえ、世帯構成人員数が減少し、少子高齢化が進むなど、一口に「世帯」といっても中身は変化している。少子高齢化に伴う社会保険料率の増加など可処分所得は落ち込んでおり、そこに最近の物価上昇が加わるとなれば、いくら必需品とはいえ、高額商品である家電への購買意欲や商品選びへの影響は大きい。底堅いとはいえ、楽観視はできない。

現状を理解するために、主な家電の買い替え状況の推移をグラフ化してみよう。

電気冷蔵庫の買い替え状況の推移を表したグラフ
内閣府「消費動向調査」より冷蔵庫の買い替え状況
電気洗濯機の買い替え状況の推移を表したグラフ
内閣府「消費動向調査」より洗濯機の買い替え状況
ルームエアコンの買い替え状況の推移を表したグラフ
内閣府「消費動向調査」より家庭用エアコンの買い替え状況
掃除機の買い替え状況の推移を表したグラフ
内閣府「消費動向調査」より掃除機の買い替え状況
テレビの買い替え状況の推移を表したグラフ
内閣府「消費動向調査」よりテレビの買い替え状況。実売データと異なり、買い替えたタイミングと調査に回答したタイミングがずれる。2014年3月前後は、2011年のアナログ停波に伴う買い替えが反映されている
パソコンの買い替え状況の推移を表したグラフ
内閣府「消費動向調査」よりパソコンの買い替え状況

キャニスター型(床に置いて使用するタイプ)からスティック型やロボット掃除機に需要が移行している掃除機は買い替え年数もほぼ横ばい傾向だが、掃除機を除くほとんどの家電で買い替え年数が長期化している。ネット利用をスマホに奪われたパソコンは買い替えの長期化が顕著だ。

上位品目への買い替えについても、掃除機以外は縮小傾向にある。これはそれぞれの家電の性能が向上し、故障しにくくなったことが大きな要因だが、家電への購買意欲の低下、高額なので壊れるまでがまんして使い続ける傾向も少なからず影響している。このような傾向が出ると、家電の年間需要台数は低下するが、一方でお金に余裕があり、積極的にプレミアム商品に買い替える人の動きが数値に反映されやすくなる。その結果が平均単価の上昇だ。

GfK Japanのリリースを見ても、2013年以降多くの家電で単価が上昇している(毎年必ず各家電の単価についてGfK Japanが言及しているわけではないためグラフにはしていない)。極端な例を挙げると、大型家電のような必需品ではないが、デジタルカメラは2010年に平均単価が2万円を割ったが、2021年は7万1000円まで上昇した。スマートフォンのカメラ機能の向上で、コンパクトデジタルカメラの需要が急激に縮小し、写真専用機として、ミラーレフ一眼レフ、あるいは高倍率ズーム機など、特別な趣味用途の需要にのみ限定された結果、高額機種中心となったわけだ。

生活必需品である洗濯機や冷蔵庫は、デジタルカメラとは事情は異なるが、たとえば洗濯機におけるドラム洗は高額機種ではあるが、すべての洗濯機需要が置き換わるわけではない。洗濯機の需要が緩やかに縮小する中、積極的にドラム洗を選ぶ人の構成比が相対的に目立ちやすい面もあるだろう。

エアコン新規開拓の地域差

現状の家電需要をけん引するのは、これまでも他の記事で何回か言及しているが、エアコンだ。高額な主要家電で普及率が上がり切っておらず、しかも部屋ごとに設置するので世帯当たりの保有台数も大きい。多くの家電が普及しきった日本における最後の「宝の山」と言えるかもしれない。とはいえ、日本は南北に縦長な地形であり、気候の地域差も大きい。家電量販店としては、導入済み世帯の買い替え、買い増し需要を押さえつつ、普及率の低いエリアで新規購入を促進することが重要施策となっている。これはメーカーも同様だ。

下グラフはエアコンの地域別普及率の推移(内閣府「消費動向調査」より)。グラフ中の太い赤が日本全体での普及率を表しているが、2022年3月調査時点のエアコン普及率は89.2%。参考までにテレビの普及率は92.9%だ。

エアコン普及率の地域別推移
エアコンの普及が遅れていた北海道東北エリアでも普及率は上昇傾向にある。
北陸・甲信越もまだ上昇余地がある

エリア別の最新のエアコン普及率は、中国・四国が93.6%、次点が近畿の93.0%、以降、関東92.5%、東海92.0%と続く。突出して低いのは、北海道・東北エリアで65.8%。次点が北陸・甲信越の85.2%となっている。

県別データについては、調査時期がずれるが「平成26年全国消費実態調査」がある。当調査によると、普及率が低い方から、北海道25.7%、青森県51.6%、岩手県57.2%、長野県60.6%、福島県68.9%、宮城県69.3%、秋田県72.3%、山形県74.9%、山梨県79.5%、沖縄県83.9%、鳥取県87.1%、群馬県87.2%、島根県87.9%、岐阜県88.8%。やはり北海道・東北エリアの県の低さが突出している。また、長野県や山形県、沖縄県などにも需要の余地がある。

ちなみに普及率の低い県は、一世帯当たり保有台数も2台未満と低い。北海道、青森県、岩手県にいたっては1台未満だ。全国各地で猛暑となる昨今、避暑地と言われるエリアでも夏場のエアコン需要が高まっている。加えてメーカーも「寒冷地仕様」モデルを投入し、冬場も石油暖房よりコスト面で優位性があると訴えるなど、エアコン普及に注力しており、グラフを見ても普及率が上昇していることがわかる。

一方で、北海道・東北エリアのエアコン保有台数の伸びは、普及率に比べて緩やか

エアコン商戦は毎年の気候頼みの面がある。また、地域ごとに気候差があり、冷蔵庫や洗濯機のようにあらゆるエリアで同じような需要が存在するわけではない。とはいえ中期的には、エアコン“未開拓”エリアに店舗を多く展開する企業が有利となる可能性が高い。

一方で、北海道・東北エリアは、人口密度が低くて大都市も限られる。点在する小商圏を薄く広くカバーする店舗網が必要になる。また、エアコンでは新規需要が見込めるとはいえ、少子高齢化・人口減少のスピードが他エリアに比べて早いため、エリアの家電需要全体の下落をカバーできるかというと難しい。四国や北陸、九州などでも高齢化率(65歳以上の人口比率)が高く、それらのエリアに比べれば“まし”という程度かもしれない。これから北海道・東北エリアに多店舗展開するのは現実的ではなく、既に広い店舗網を有しているヤマダデンキとケーズデンキの一騎打ちになりそうだ。

業界再編の最終章を迎えるか

いずれにせよ、家電量販企業の業績は、エアコン依存が非常に強い状況が続いている。2023年3月期第2四半期の決算発表を前に、家電量販企業には業績の下方修正を発表するケースが目立った。巣ごもり需要の反動減が長引いたこと、台風や大雨の影響、そして夏場の天候不順によりエアコン販売が振るわなかったことなどが要因だ。エアコン需要はまだ伸びる余地があるものの、季節要因に左右されやすく将来的な需要動向を予測しにくい。エアコンに依存しなければならないものの、経営上は不確定要素でもあり、難しいかじ取りを迫られる。

少子高齢化・人口減少により国内家電市場は今後も緩やかに規模が縮小する見込みだ。これまで家電量販業界の再編は、特需反動による急激な市場の縮小をきっかけに発生することが多かった。だが、すでに淘汰や吸収により、プレーヤー数は絞られている。いかに大きく成長するかというステージは終わり、いかに縮小市場で着実に利益を確保し、会社を長く存続させるかが家電流通市場での生き残りのポイントになりそうだ。「家電で苦戦するヤマダ」で説明したように、規模が大きいがゆえに難しい面もあり、必ずしも業界ランキング上位の会社が安泰とも限らない。

エアコン需要が頭打ちを迎え、安定的な買い替え需要に移行したタイミングで、家電流通業界もいよいよ最終決戦を迎えるかもしれない。これまで業界では、生き残るのはカメラ量販1~2社、郊外型量販2~3社といわれてきた。筆者としては、カメラ量販・郊外量販合わせて3社程度と考えている。同業他社による買収や子会社化ではなく、異業種による買収、あるいは家電メインではない業態への移行などが進むのではないか。そのきっかけとなるエアコン需要の動向に目を配る必要がありそうだ。

研究所長 川添 聡志

株式会社流通ビジネス研究所 所長 雑誌および書籍の編集者として出版業界に携わる。家電量販店向け業界誌『月刊IT&家電ビジネス』編集長を務めた後、家電量販企業に転職。営業企画やWebを含めた販促などを担当し、その後流通コンサルタントとして独立。ケーズデンキ創業者・加藤馨氏および経営を引き継いだ加藤修一氏の「創業精神」を後世に伝えるため、株式会社加藤馨経営研究所の設立に携わり研究所所長に就任。その後、ケーズデンキに限定せず、幅広く流通市場を調査研究するため、2022年1月からコンサルティング会社「株式会社流通ビジネス研究所」を設立し、同年4月より活動拠点を新会社に移行

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