ヨドバシが西武・そごうに出店へ

2008年12月の池袋駅東口の風景

11月9日の日経新聞オンラインの速報に驚かされた。

セブン&アイ・ホールディングスは百貨店子会社のそごう・西武を米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに売却する方向で最終調整に入った。売却額は2000億円を超えるもよう。家電量販店大手のヨドバシホールディングスはフォートレスと連携し、東京・池袋や千葉にある主要百貨店内に出店するとともに、店舗不動産の取得を通じて資金拠出する見通し。(以下、略)

日経新聞オンライン「セブン、米ファンド・ヨドバシ連合にそごう・西武売却へ

そごう・西武の売却については、今年7月に「ヨドバシが池袋に出店か?」でヨドバシカメラが応じる可能性は低いと論じた。しかし、限られた出店余地、十分な年商を見込める駅前をしっかり押さえる方針をとったようだ。筆者の考え方が保守的すぎたのかもしれない。11月1日にヨドバシカメラ千葉店のすぐ横にビックカメラ駅前店がオープン。店舗規模が上回るビックカメラの出店は、ヨドバシカメラとビックカメラの直接対決の号砲だったのだろうか。

これまで両社は、新宿で競合しつつも、有楽町と秋葉原、梅田となんば、博多と天神のように、大型店では適度な距離感を保っていた印象だった。しかし、駅前大型店の出店余地がなくなる中、今後は限られた立地を奪い合うかたちで直接対決していくのだろう。千葉駅前のビックカメラの挑戦状が、今回のヨドバシカメラの判断を促したという簡単な図式はありえない。確保できる物件はしっかり確保するという判断は、ネット通販の強者であるヨドバシカメラであっても、リアル店舗の重要性をしっかりとらえている証拠だ。

西武の店舗は、池袋、渋谷、所沢(埼玉県)、東戸塚(神奈川県)、福井、秋田。そごうの店舗は、横浜、千葉、広島、大宮(埼玉県)。日経新聞の記事は以下のように続く。

関係者によると、フォートレスは西武池袋本店(東京・豊島)やそごう千葉店(千葉市)などの主要店舗にヨドバシを誘致する。ヨドバシは店舗不動産の一部を取得して営業するもようだ。

日経新聞「セブン、米ファンド・ヨドバシ連合にそごう・西武売却へ

そごう千葉店なら、ビックカメラよりもJR千葉駅、京成千葉駅に近く、物件の大きさも申し分ない。池袋はビックカメラの本拠地だが、西武池袋本店は駅直上のビルで広さも十分。この2店舗が手に入るだけでも、ヨドバシカメラとしては十分投資価値があるのだろう。また、記事中に名前はあがっていないが、そごう大宮店もビックカメラに対し有利な立地だ。ヨドバシカメラとしては、通勤客をターゲットにした大型リアル店舗で気軽に立ち寄れる環境を用意しつつ、店舗でも自社ネット通販でもどちらでも便利に使える環境を用意する。さらには自社物流による即日配達の拠点強化もできる。

筆者は保守的に考えすぎたのかもしれないと先に記したが、7月のニュースから大きく変化している点がある。「ヨドバシは店舗不動産の一部を取得して営業するもよう」という一文だ。以前の記事「ヨドバシが池袋に出店か?」で筆者は以下のように書いた。

フォートレスとしても、ヨドバシカメラと連携できなければ、「セブン&アイとフォートレスは、従業員の雇用や店舗の改革を含めた詳細を詰めていく」と手間ばかりかかる難しい案件となります(※セブン&アイとフォートレスの間で検討されるこの条件も、出店する側のヨドバシカメラにとっては店舗運営の障害となるでしょう)。

当サイト「ヨドバシが池袋に出店か?」より

フォートレスとの話し合いで、ここで指摘した「障害」が解決され、「店舗不動産の一部を取得して営業」できるようになったことが、今回のヨドバシカメラの判断の決め手だったと思われる。フォートレスがこの投資案件を成功させる上でヨドバシカメラは欠かせない存在であり、良い条件を引き出せたのだと推測される。

注目されるのは今回のヨドバシカメラの決定が今後の家電流通業界にどう影響するかだ。店舗規模が同じであれば、ビックカメラに対しヨドバシカメラに分があると筆者は考えている。品揃えの深さ、利便性、価格施策、そしてネット連携など、ヨドバシカメラには独自の強みがある。ビックカメラが本拠地である池袋、出店間もない千葉などで劣勢になれば、経営上のリスクは小さくない。特にビックカメラは店舗の多くが賃貸物件であり、コスト高だ。売り上げが減少すればもろい面をはらんでいる。ヨドバシカメラとビックカメラが池袋で火花を散らせば、ヤマダデンキの旗艦店LABI1 LIFE SELECT 池袋も当然巻き込まれることになる。

まだ正式発表ではないものの、ヨドバシカメラが西武・そごうの建物を取得し出店すれば、駅前大規模店舗の競争が激化することは間違いない。コストの高い駅前立地は店舗コストも高く、弱い店舗は一気に苦境に立たされる。遠方からの集客が見込める都市部主要駅は、商圏規模に弾力性があると言われるが、昨今の日本の経済事情を考慮すると楽観視はできないだろう。ヨドバシカメラの動きが、カメラ量販の直接対決となるばかりでなく、家電流通業界全体の再編につながる可能性もありそうだ。

研究所長 川添 聡志

株式会社流通ビジネス研究所 所長 雑誌および書籍の編集者として出版業界に携わる。家電量販店向け業界誌『月刊IT&家電ビジネス』編集長を務めた後、家電量販企業に転職。営業企画やWebを含めた販促などを担当し、その後流通コンサルタントとして独立。ケーズデンキ創業者・加藤馨氏および経営を引き継いだ加藤修一氏の「創業精神」を後世に伝えるため、株式会社加藤馨経営研究所の設立に携わり研究所所長に就任。その後、ケーズデンキに限定せず、幅広く流通市場を調査研究するため、2022年1月からコンサルティング会社「株式会社流通ビジネス研究所」を設立し、同年4月より活動拠点を新会社に移行

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