※本記事は「株式会社加藤馨経営研究所」サイトにて執筆・公開した記事です。
日経ビジネスが以前実施していた「アフターサービス満足度ランキング」の家電量販店部門で5年連続で日本一に選ばれました。筆者は、この詳細データを調べたことがあります。購入した詳細データで、ユーザー個々の各企業に対するコメントを見ていて、ケーズデンキで特に強く感じたのが「現場力」です。印象に残ったのが、以下のようなコメントでした。
レンタルで借りたDVDレコーダーのトレイが開かなくなり修理依頼をしました。すぐに店員さんが取り出せるかどうかを確認し、メーカーに電話して取り出し方法が無いか確認してくれました。それでも取り出せなかったのですが、レンタル会社宛に修理中のためDVDが取り出せない旨を書いた証明書を発行してくれました。そのおかげで修理できてからの返却でOKとの回答をいただけました。その後、修理完了前にDVDだけ取り出せた時点で速達で送って来てくれました。
お客様の要望に対し、マニュアルを確認したり、本部の指示を仰いだりしていたのでは間に合わないケースもあります。そのような時に大切なのは、お客様の気持ちを感じ取り、何ができるかを現場の販売員がしっかり考えることです。上記の事例は、マニュアルで事前に用意できる内容ではありません。本部やエリアマネージャーなどに確認して対応するものではありません。しかし、お客様の身になって「親切と愛情」をもって考えればこのような行動が自然とできます。表に出てくる事例はわずかですが、このような現場力がアフターサービス満足度ナンバーワン獲得につながっているんだと実感しました。
実際、私もいろいろな企業の店舗を視察してきましたが、古い蛍光管を手に持ったお客様が来店した際、すぐに販売員が近寄り「交換ですか? よろしければ合うものをお探ししましょうか?」と声をかけていたのがケーズでした。同じ関東の量販企業の店舗でも同じような光景を何度も見ましたが、声をかけるケースは見かけませんでした。そのため、お客様が蛍光管売り場にしゃがみこんで苦労して商品を確認していて、その姿を見ると部外者の私が声をかけたくなったものです。蛍光管は消耗品で低単価ですから、販売員の売り上げ成績(あるいはノルマ)につながらないからでしょう。しかし、お客様からすれば、合う商品を探すのが大変な商品ですから、販売員の声掛けはとても重要です。
もちろんプラスの評価だけではありません。「ぞんざいな対応を受けた」「修理を頼みに行ったのに、ろくに見もしないで買い替えた方がいいと言われた」などのコメントも散見されました。これは競合企業も同様です。結局は、このような現場力を発揮できるような「店舗」「人」をどれだけ増やすことができるかが顧客満足度の評価において重要だということです。
そのためには、現場が力を発揮できる仕組みづくり、ゆとりをもってお客様に応対できる環境づくりが欠かせません。これは経営陣や本部の仕事です。現場に仕事を押し付けるのではなく、現場の困りごとを解決するために動く、だから本社機能は大きくする必要がないわけです(本社の規模を大きくすると売り上げに直結しない本社コストも肥大化します)。加藤修一氏は、創業65周年に執筆した「すべては社員のために『がんばらない経営』」(かんき出版)の中で、「アフターサービス満足度ランキング」に関連して以下のように話しています。
ケーズデンキでは、社員にノルマを設定していません。ノルマを設定すると、いくらお客様を大切にしなさいといわれ、それを遂行しようとしても、売り上げの数字を挙げるために、利益のよいものを勧めることになります。また、ノルマを達成させようという焦りから、親身になってゆったりとお客様に対応することができなくなります。つまり、本来の方針からはずれてしまうことになるわけです。
利益の上がらない商品にお客様がお客様が関心を持つと、そのお客様に時間を取られてしまいますので、社員は逃げ腰になります。また、クレームやトラブルがあった場合にも、対応はおざなりになります。
そのような体質の店が、よいサービスをできるわけがありません。お客様は、もうその店で買いたくないと思うのではないでしょうか。
お客様にファンになっていただくには、直接接する社員の質の高さが求められます。社員の労働環境や生活環境をよくし、ノルマに縛られることなくのびのびと働いてもらってこそ、お客様にきちんと対応できます。社員を大切にしてこそ、お客様のためになる、よい仕事をするということです。
世の中にはどうしても、管理を徹底しないと社員は動かないという思い込みがあるようですが、ケーズデンキでは、のびのびしてもらって、自分から進んで働いてもらおうという逆の考えです。そのような環境づくりこそ、経営者の仕事なのです。
つまり、販売現場がのびのびと自分で進んで働けない、お客様の立場で案内できないような状況に陥っているとしたら、それは本社に問題があるということです。
現在、日本では多くの必需品が普及し、(人口減少や少子高齢化など)社会自体が高度成長期ではなく、成熟期に入っています。かつては年商100億円の郊外家電量販店が見られましたが、現在ではほぼありません。売り上げ規模が縮小傾向にあるため、店舗のローコスト化を迫られています。無駄な作業を減らす、無駄な人員を減らす、無駄な光熱費を抑えるなど、ローコスト化にはさまざまな方法があります。流通業でここ十年以上、顕著な傾向として見られたのが「パート・アルバイト比率の向上」です。コンビニやファストフードなどは、当初からほぼパート・アルバイトで現場を回しています。
では、家電量販店はどうでしょうか? 倉庫管理や品出し、レジなどはパート・アルバイトが中心ですが、接客をパート・アルバイト化するのは困難です。家電は接客販売が中心であり、お客様の買物をサポートする知識も必要となされる「技術接客」です。能力を向上するには経験も必要ですし、成長には時間もかかります。社員、あるいは社員を目指すパート・アルバイトでなければ難しいでしょう。
加藤修一氏は、「月刊家電ビジネス」1985年10月号で、以下のように語っています。「店でかかる費用というのは固定費が多いから、手をつけやすいのは人件費。他の会社だと、パート化して人件費を抑えようということになるが、そうしない方が良いと考えている。パート化して人件費を抑え、売り上げが多少下がってもペイする店、というのは相手が積極戦略をとってくるとますます売り上げが下がる、ということになりかねない」。言い換えると、目先のコストダウンではなく、社員の生産性を向上することにより、結果としてローコストになる――その結果、競合に対し優位に立てるようになるということです。
「生産性の向上とは?」「『生産性向上』の考えを引き継ぐ」で紹介した「生産性」にも絡んできます。社員の余裕がお客様への親切につながり、親切をすることで将来の売り上げにつながる種まきができて、無理な刈り取りをせずに生産性を向上できます。目先の売り上げを追いかけると、社員は無理をしますし、無理をするとお客様に親切でなくなり、嫌な思いをしたお客様は来店しなくなります。これでは生産性は低下し、さらに身を切るようなコスト削減が必要になってしまいます。だからこそ、「がんばらない経営」では、親切な行動をする社員を大切にするのです。親切に行動する「人の力」を発揮させることは生産性向上に直結し、結果としてローコストにもつながるわけです。ローコストは経営陣や本部が、現場に強いて実行するものではないのです。
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